黄金比はすべてを美しくするか?―最も謎めいた「比率」をめぐる数学物語  (ハヤカワ文庫NF―数理を愉しむシリーズ)

  • 早川書房 (2012年1月5日発売)
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本棚登録 : 342
感想 : 21
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著者は宇宙物理学者だが、基本的に数学史上の「黄金比、φ」をめぐるトピックを並べた読み物である。
黄金分割についてはさまざまな噂があるが、この本は意外にも、そういった「神話」を突き崩していく。古代ギリシャのパルテノン神殿、エジプトのピラミッド、多くの西欧絵画に黄金比が利用されている、といった過去の言説に対して、根拠が曖昧でこじつけ的なものとして批判を浴びせる。
そうした「黄金比神話」のまやかしを批判しながらも、「φ(ファイ)」が数学においてしばしば突然出現する、やはり不思議な無理数であることを強調している。
「黄金比が数学、科学、自然現象といった多くの領域で重要な存在だとしても、私としては、人間の形にしても、芸術の試金石としても、それを美観の絶対的基準とするのはやめるべきだと思うのである。」(P.310)
これが著者の主張の核心だ。
この本には載っていないが、ドビュッシーのあるピアノ曲が黄金比に基づいている、という噂を私も聞いたことがある。これも怪しげな「神話」であったろう。実際のところ、1.618...という黄金数を創作に持ち込んでもあまり意味はないと思う。
「数」が世界の根源を解明する鍵だというピタゴラスの思想は、実際そこから西欧の「偉大な」自然科学の歴史を生み出したが、ある数を取りだして神話化してしまう姿勢はまったく「科学的」なのではない。
わからないものはわからないと考えた方がよい。芸術や文化には無理に神秘を持ち込む必要はないだろう。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 自然科学・数学・情報
感想投稿日 : 2013年5月2日
読了日 : 2013年4月30日
本棚登録日 : 2013年4月30日

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