シャーロック・ホームズ最後の挨拶 (新潮文庫)

  • 新潮社 (1955年4月15日発売)
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感想 : 81
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 『冒険』ほどではないにせよ個人的に粒揃いだと感じた今回の短編集の中、ひときわ印象強い読後感が残ったのはやはり表題の「最後の挨拶」でした。

 これまでの作品群には現実の歴史的事件の匂いを感じるようなものは然程ありませんでしたが、この短編に関しては第一次大戦の不穏な気配が色濃く表れており、ホームズの取り扱った他の事件とは少し毛色の異なる緊張感が漂っています。
 そしてこの緊張感が、読者が抱くこのシリーズへの「慣れ」という、悪く言えば一種のマンネリ感とも言うべきものを取り払った部分が少なからずあるのかなと感じました。他と比べて異色であることは確かなので好みが分かれそうな短編だと思いますが個人的にはとても気に入りました。
 ホームズが探偵業を引退してから長らく交流が無かったであろう彼とワトスンとの関係も、ひとたび両者が合流すれば再び以前のように息の合ったコンビネーションを見せるそのままの関係が垣間見えるのも微笑ましい。「最後の挨拶」直前までの短編でホームズの現役時代の話を読んでいるはずなのに、久方振りに共同で事件にあたった二人のやり取りに読者としてもどこか懐かしい気持ちにさせられます。

 「東の風になるね、ワトスン君」から始まる二人の最後のやり取り、特にホームズの言葉は彼の口を介して出たドイル自身の言葉なのかな。ホームズ物語はこの後もう一冊(いま読んでいるのは新潮社版なので後二冊)ぶんの展開があることは頭には入っているものの、個人的にはこの「最後の挨拶」は適度にセンチメンタルな読後感を残してくれる良い最終回だと思います。全ての短編を読み終わった後にもう一度この一篇に戻って来たいと思える作品でした。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2018年4月23日
読了日 : -
本棚登録日 : 2018年4月23日

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