日本では米よりも早くから納豆が食べられていたのかもしれない。東アジア原産の大豆を煮るか蒸して柔らかくする。麹菌で発行させれば豆豉や味噌や醤油になり、納豆菌で発行させれば納豆だ。

味噌が中国からやって来たのはほぼ間違い無いのだが納豆はよくわからない。中国では一般的には食べられていないからだが、日本でも普通は東の食べ物とされている。アジア納豆の分布を調べていくと日本から朝鮮半島一体と貴州、雲南からタイ北部、ミャンマー北部の山岳地帯からブータンやネパールまでの分布が見えてくる。なんというか山の食べ物なのだ。

普通は納豆は干した藁についた枯草菌の1種である納豆菌による発酵と思うだろう。しかし実は納豆菌自体はそこらにいる。金沢上空3000mので取れた黄砂に付着した納豆菌で作られたそらなっとうもある。茹でた大豆を葉っぱにくるんで保温しておいておけば条件が合えば勝手に納豆ができてしまうというわけだ。アジア納豆ではシダやバナナなど使いやすい葉っぱが使われている。藁包の場合は包む手間は大変だけど通気性がよく保温性に優れできた納豆が傷みにくい。仕込みの時期は元々は冬なので比較的涼しく、使える葉っぱがあると同時に優先されるタンパク源(魚など)があまり取れないところで食べられて来たのだろう。稲作の伝播とはどうも一致しないのだ。

探偵ナイトスクープ発の日本全国アホバカ考では新しい言葉は京都を中心に同心円状に広がっていく様子が丁寧に調べられている。言葉はだいたいこれに当たるが納豆はどうも当たらない。日本の納豆の発祥の地は秋田ということになっている。

大豆は優秀なタンパク源としてだけではなく味噌や醤油など調味料として使われて来た。そしてアジア納豆も同じく調味料になっている。乾燥した納豆を焼いた納豆せんべいを割って砕いたり、汁物にペーストを入れたりという使い方だ。日本では味噌が好まれたため調味料としての存在感はない。この本の素晴らしいところはアジア納豆が日本でもできるかを再現したところだろう。さらっと読めるが十分論文が書ける調査だ。続きはアフリカ納豆が待っているらしい。

2020年12月29日

読書状況 読み終わった [2020年12月28日]
カテゴリ 文化、音楽など

2014年シーズンのヒューストン・アストロズは過去半世紀で最悪のチームだった。過去3年で324敗、この年も最下位争いをしていたがスポーツ・イラストレイテッド6月30日号の表紙は新人外野手ジャージ・スプリンガーの写真とともにYOUR 2017 WORLD SERIES CHAMPSと予想がのった。この本はアストロズがそれをどのように達成したかを追ったものなのだが、問題はこの本に書かれていないその後だ。この本の主役達GMのルーノウ、ベテランのベルトランそして監督のヒンチはサイン盗みを主導した。クライマックスとなる2017年のワールドシリーズではベルトランがダルビッシュの癖を読み攻略したことが描かれている。第3戦ではシーズン中26%の空振りを取るダルビッシュの49球に対しアストロズは25回バットを振り空振りは2回、わずか8%だった。
「実際のところ、アストロズの打者たちには読めていた。」
第7戦でダルビッシュは癖を修正したがやはり2イニングで5点を失いSIの予言は達成された。

サイン盗みはさておき、アストロズの再建はドラフト戦略から始まった。メジャーでプレイできる選手は1割にも満たない。セイバーマトリクスと従来のスカウトを組み合わせ、スカウトの直感まで数値化しようとした。真に価値のある情報と認知バイアスを分けるためだ。背景にはGMのルーノウが2009年セントルイスのスカウト部長時代に1巡目19番目でなぜもう1人の候補を選ばなかったか何度となく振り返ることになる後悔がある。逃したトラウトは大きかったのだ。

2012年のドラフトでは全体1位で全米最高の逸材と言われたバイロン・バクストンではなくプエルトリコの高校生カルロス・コレアを指名した。試合成績についてはどのチームも同じ情報を持っているがアストロズが重視したのはコレアの性格や成功したいと言う強烈な意思を持って努力し続けたことなどだった。また、契約金が安めに上がり下位指名選手への契約金上積みが可能になると言うことも後押しした。

チーム内の評価方法を変えたことでアストロズはスプリンガーやダラス・カイケルを見出だし、さらにホセ・アルトゥーべは長打を打てる打者に成長した。だが成功ばかりではない。

2013年シーズン終了後J・D・マルティネスはスイング改造に取り組んだ。いわゆるフライボール革命に適したアッパースイングを取り入れベネズエラリーグではOPS957と成果を出した。しかしアストロズのアルゴリズムは27歳の選手に他の打者の半分しかチャンスを与えず、20打席の内半分が代打だったこともありヒット3本で春季キャンプを終えアストロズはマルティネスを解雇した。それから4年間打率3割、平均32本のホームランを打つ選手に対し何の見返りを得ることもなく。

アストロズのドラフト戦略の成功や2017年夏のドラフト期限残り2秒でのジャスティン・パーランダーの補強、ベルトランがもたらしたチーム内の好影響などはノンフィクションとしては良いエピソードだ、サイン盗みさえなければ。

2020年8月16日

読書状況 読み終わった [2020年8月13日]
カテゴリ スポーツ

多くの中国人は、近隣国が中国の文化にひれ伏して朝貢してきたと信じている。そして道徳的な優位性や文化の力によって世界からリスペクトされたいと言う願望が強い。経済力や軍事力によって大国の地位を得ることは、中国人にとって十分ではない。

中国人の世界観では陰謀論がきわめて強い。そして中国共産党は人類の明るい未来「和諧世界」実現のための崇高な任務を負っているということになるのだが70年経っても国内に多くの問題点があるとすれば理論上、「人類の不満」の主な源を国際情勢に求めざるを得ない。

尖閣諸島秋の漁船衝突に端を発する日本に対するレアアースの禁輸やTHAAD配備に対する韓国への不買運動など中国はそれが制裁だったとは認めていないが近隣国は中国の意に沿った行動をとるべきとの考えが強まっている可能性は否定できない。この辺りの感覚は親日的な中国人でもアメリカの陰謀説を唱えたりするので自分たちがどう見られているかに無自覚なのだろう。

中国社会の組織は伝統的な家父長制、強い権威を持つ父親と平等な兄弟という構造を持っている。これは政府にも会社にも共通する。共産党中央が親で党と軍と国家行政系統が兄弟に当たるが兄弟間では組織的な協力関係はなくそれぞれが親の権威に従う。胡錦濤政権では家父長の力が弱いと見られたため軍の突き上げに合い対外関係はむしろ緊張した。弱い家父長の下では兄弟達は自分たちの利益確保に走る。これは会社でも同じことが起こる。中国のリーダーとは恐れられ嫌われる存在なのだ。そして強い権威に対しては忖度が兄弟達の行動を決める原理となる。

2017年ダボス会議の基調講演で習近平は「グローバルで自由な貿易と投資を発展させ、開放性のなかで貿易と投資の自由化と簡便化を進め、保護主義反対の旗を鮮明に掲げていく」「中国の発展は世界のチャンスだということ、そして中国は経済グローバル化の受益者であり、さらにそれに貢献する存在だということだ。」中国共産党の最大のオリジナリティは、共産党の名前を掲げながら計画経済をあきらめ、自由主義経済ー彼らの伝統的な呼び方では資本主義経済ーに走ったことであろう。習近平は強い権威で国内を押さえて、国際的に尊敬される存在を目指している。真面目にだ。恐れられ嫌われることと尊敬されることは中国の組織では両立する。近隣国が中国をおそれ嫌うのは尊敬される過程ということになってしまう。

習近平体制は相当長期に続く可能性はあるが、強力な家父長を失ったあと中国社会は必ず拡散の方向に向かう。そして何がどうなるかだ。

2020年8月17日

読書状況 読み終わった [2020年8月6日]
カテゴリ 国際

暗黒の宇宙から迫りくる三体艦隊
“わたしがおまえを滅ぼすとして、それがおまえとなんの関係がある?”

対する地球では智子の監視にも関わらず科学技術が爆発的な進化を迎えていた。
「人間性の解放は、必然的に科学とテクノロジーの進歩をもたらす」

面壁人としての羅輯(逻辑=logicだ!)の戦略は?

“星に呪いを”

2020年7月7日

ネタバレ
読書状況 読み終わった [2020年7月7日]
カテゴリ 小説

「かかっているのはたかだか国家の存亡だ 個人の自由と権利に比べればたいした価値のあるものじゃない」まさかのヤン・ウェンリー の名セリフ、劉慈欣が銀英伝を読んでいたとは。

銀河の歴史がまた1ページ。

2020年7月7日

読書状況 読み終わった [2020年7月7日]
カテゴリ 小説

この本の多くは小池が語った言葉、小池の「物語」でできている。そしてこのレビューはその言葉を切り取ったものだ。

小池はカイロ・アメリカン大学で勉強し、「三週間で新聞が読めるようになった」「小説が読めるようになった」
「英語やフランス語と違って、アラビア語をやっている人は少ないから、アラビア語を学んで通訳になりたい」
テストではカンニングしてもアラビア文字が書けないので引き写すことができなかった
「ちょっと自慢になりますが、カイロ大学では、主席で卒業したんです。で、帰国のために乗るはずだった飛行機が、都合が悪くてキャンセルしたら墜落しちゃったんです。同じようなことが、もう一度ありました。わたしって、本当に強運なんです」

小池はアラビア語学校に一、二回通うとスクールを辞め、そこで中級コースに通う山本と出会って2か月で結婚を決めた。だが結婚生活は長続きしなかった。留学生の中ではアラビア語がうまいと言われた山本もカイロ大学の授業についていくには充分ではなかったようだ。

小池のアラビアでの生活はガイドのバイトや駐在員との社交が中心であった。73年2月に父親についてリビアに行くエピソードが出てくるが後にこう語っている。
「私は中東にいて、国際政治の冷徹さや二枚舌外交、また領土に対する認識の強さを現実に見て学びました。最も肌で感じたのは、たしか七三年の五月、商社マンの通訳としてトリポリに行った時のことです。 リビア石油公社との交渉だったのですが、結論は出なかったので、乗る予定だった飛行機をキャンセルして一日滞在を延ばしたんです。飛行機は地中海の上を通ってシナイ半島のところで南下し、最後は北上してカイロ空港に到着する予定だったのですが、その途中で、イスラエルの上空を侵犯したとして戦闘機に撃ち落とされました。 あの時に、背筋が凍るとはこういうことだと実感しましたね。領空、領土、領海は主権そのものです。『一歩足りとも自分たちの領土には踏み入れさせない』という意識を、身をもって学んだんです。

小池と同居する早川さんの当時の手紙にはこうある「リビアでお父様に結婚を許してもらったと百合子さん、とても幸せそうでした」

小池は自著他で結婚の理由を、「第四次中東戦争が始まって心細かったから」と、何度となく語っている。飛行機事故の命拾いではない。また、政界転身の際にはテレビ東京に対しこう告げたと語っている「小池は飛行機事故で死んだものと思ってください」

戦争が始まったのは10月、小池がカイロ大学に編入する時期で小池は「私は戦争を体験した」カイロ大学では「入学式は匍匐前進だった」と後々語っている。

後にWBSのキャスターをやっていたので経済がわかると言うのも同じでいずれも小池が作る「物語」だ。「私は1971年から5年間、中東にいた経験がある。その間、通訳や取材者として、数多くのアラブの政治家たちに会った。」
信じる方がどうかしている「物語」だが、大学が公式に認めた以上カイロ大学は卒業したということなのだろう。ただ選挙活動での嘘はそれでは済まない。二十歳の留学生を商談の通訳に雇う商社などない。観光ガイドはできても政治家の取材に使うこともない。そこにいるだけではアラブ通にも外交通にもなりはしない。

「私が権力者のところに渡るのではなく、私のサポートでその人が権力者になるんです」

子供の頃の小池は先生の受けはよかった。同級生は目立たない、英語はペラペラでしたと語るだけで悪い評判はない。だが、留学以降の小池は自分の語る物語のイメージを武器に次々と庇護者を使い捨ててのし上がっていく。人脈を作るための努力は欠かさなかった。

「キャスター時代の頃です。私はある男性と約一年間お付き合いをしていました。その方はとてもステキで、前...

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2020年6月20日

読書状況 読み終わった [2020年6月20日]
カテゴリ 人物

第1局 石田芳夫-林海峰
23歳で林海峰を破り本因坊を5連覇した石田だが7大タイトルは9つで挑戦手合は19回。林との対決では5-1とかもにした。年齢的には加藤正夫がライバルのはずだが、加藤の活躍は石田の5連覇の終わりと入れ違いのため0-3で加藤と対決は少ない。一方で6歳年上の林は2001年に59歳で依田に挑戦するなど息が長い。

林海峰の対戦成績は対坂田6-2、対加藤2-5、対小林2-3、対趙2-2

昭和40年代は坂田栄男の時代が終わり若い林海峰と石田が碁界の中心となっていった。

第2局 大竹英雄-林海峰
同い年で誰もが認めるライバルながら直接対決はわずかに2回。大竹の活躍は1975年に石田から名人をとった頃からで林からは10年遅れと言える。1976年以降加藤、武宮、趙、小林が次々とタイトルを取っており木谷門では石田に代わり年長の大竹が昭和50年代から平成までは木谷一門の時代でその前半を引っ張ったのが大竹と加藤だ。 大竹のタイトル戦は対趙が2-8と最も多く、対加藤は4-2、対小林1-5、対石田3-0、対武宮1-1と門下全てがライバルとなっている。

第3局 趙治勲-加藤正夫
趙が6歳で来日し内弟子生活を始めたころ、石田、加藤が次々に入段し1965年に武宮と小林が加わり10年近く一緒に暮らした。加藤が少し遅いとは言え17歳で入段したころ、趙はまだおもちゃのピストルを持って走り回る小学生だった。石田、武宮とともに木谷門の三羽烏と呼ばれた加藤はタイトルの数ではこの三人の中では大きく抜きん出ている。対小林4-6、対趙3-5 、対武宮3-1

第4局 小川誠子-小林千寿

第5局 小林光一-武宮正樹
学年と入段はともに武宮が2つ上だが木谷門下に入ったのはほぼ同時で初タイトルもほぼ同時。しかしタイトル戦の常連となったのは昭和60年代以降と2人の活躍は30代以降がメインだ。武宮がしかけた舌戦もあり、外野から見れば囲碁では珍しいプロレス的な対決だった。最終的な実績は小林に軍配が上がるが人気では武宮か。

武宮の対戦成績は対小林2-3、対趙2-4と木谷門下でのタイトル戦がほとんどだ。

第6局 趙治勲-小林光一
対戦成績は趙の8-2と偏ったが3大タイトルでの対決9回はまさにライバルだ。年は小林が4歳上だが木谷門では趙が先輩で小林の入門時は趙の方が強かった。しかし小林が先に入段した。初の7大タイトルもほぼ同時ながら20代の趙は次々とタイトルを重ね昭和60年代から平成の前半はこの2人が碁界の中心に居続けた。

趙の対戦成績は上記以外では対王立誠4-4、対依田2-2、対山下2-1など。

第7局 趙治勲-依田紀基
木谷一門の時代を終わらせるのは依田だと思っていた。15歳で入段し11連勝。18歳で名人戦リーグ入りしかしその後歌舞伎町におぼれ、バクチにハマりとこの辺はどん底名人で。7大タイトルは1995年の十段から2005年の碁聖までとほぼ30代だけと言うのは寂しい。

趙との4戦以外めぼしい対戦相手がないのはライバルといえる存在がいなかったと言うことだろうか。

第8局 山下敬吾-羽根直樹
第9局 張栩-高尾紳路
第10局 井山裕太-芝野虎丸
平成四天王は入段がいずれも平成になってから。タイトルは2000年山下21歳が最初で2000年代始めは趙、王立誠、依田から四天王の時代へと変わっていった。しかし井山の登場で全てが変わる。2010年以降は誰が井山からタイトルを奪えるかが焦点となった。2019年までの10年間で井山の出てこないタイトル戦はわずか15回だ。

井山の対戦成績は対張栩6-3、対山下11-1、対高尾6-2、対羽根1-0、対河野臨7-0、対村川大介3-2、対一力遼5-0、対許家元1-1、...

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2020年6月14日

読書状況 読み終わった [2020年6月14日]

これはあかんヤツや。ヤバイところでヤバイヤツの食う飯を見に行く、秀逸なワンアイデアをディレクターひとりのロケで成立させる力業。こんなことをやるのは戦場カメラマンくらいにだろうにテレ東社員ディレクターがやってしまう。よく無事に帰ってきてくれました。

「リベリア 人食い少年兵の廃墟飯」「台湾 マフィアの贅沢中華」「ロシア シベリアン・イエスのカルト飯」「ケニア ゴミ山スカベンジャー飯」ここだけ見ればとても中華以外は美味そうには思えないが、上出遼平はどこに行っても出されたものを食う。そして意外と美味いものもある。潔癖症らしいのだがよくやるわ、ほんと。

内戦後のリベリアでは元兵士たちがもはや敵味方関係なく同じ廃墟に暮らしている。リベリア人ですら近づかない高リスクエリア。通常の取材であれば警官を護衛に雇って行くところだがそれでは飯を見せてもらうと言うところにはたどり着かない。とんだ突撃隣の朝ごはんだ。

2つのミッションをクリアした上出はわざわざ帰国を1日伸ばし、リベリアで最もヤバイ場所へ行く。国立共同墓地を貫くわずか50mのその通りは警察も立ち寄らない。カメラを持っているだけで襲われる理由としては充分な場所だ。他の場所はボスを見つけて話をつけ、終わったらボスに謝礼を渡すと言う一応のパターンがあるがここでは誰がボスかもわからない。持っていたGoProは一度取られる。ポケットの中には手が入ってくる。掏摸か強盗で金が入ったら飯を食って、残った金でコカインを買うそう言う場所だ。

上出が無事に脱出できたのは運もあった。墓場で頭蓋骨を持って微笑むファム・ファタールの名前はラフテー。200円で身体を売ってその金で飯を食う彼女の男は墓場のボスだった。ラフテーの食事は暗闇の中、蝋燭もなく屋根しかない食堂。芋の葉っぱと魚の燻製を煮込んでパームオイルをかけた煮込みと山盛りの米のセット。「様々な食材がごった煮にされて、もう作ってる本人でさえこれがなんなのかわからなくなっているのではないかと思うほど複雑な味がする。焦げ茶色のドロドロの液体は食味の沼のヘドロのように、旨味が澱のように凝縮されて、熟成されている。老舗鰻屋の継ぎ足しのタレのような芳醇な香ばしさに、干し魚の旨味、そして芋の葉の粘りと青い香りに、パームオイルの酸味。美味い。米がすすむ。」

渋滞の中を逆走し、待たせた飛行機にようやく間に合った代わりに財布を落とした。そして3日かけて日本へ帰った上出は翌日台湾へ飛んだ。待っているのはマフィア飯だがまだアポは取れていない。

しかしこの企画を通してしまうテレ東もどうかしてる。

2020年6月9日

ネタバレ
読書状況 読み終わった [2020年6月9日]
カテゴリ 社会

どの社会でも、最も大事な資源はその構成員、つまり人間である。したがって健康への投資は、好況時においては賢い選択であり、不況時には緊急かつ不可欠な選択となる。

一般的な予測とは異なり不況は必ずしも健康を損ねないと言う「過去の自然実験」の結果がある。「1931年はアメリカ史上にあまり例がないほど健康な年になった」1929年から33年にかけアメリカの平均所得は一気に下がり、同時に総死亡率は10%減少した。33年以降経済の回復と同じく総死亡率も上昇を見せたのだ。

この多くは長期的な衛生状態の改善で説明がついたが、失業による自殺率の上昇が覆い隠されていた。逆に交通事故死の減少は自殺者数の増加を上回っていた。そしてこの2つの現象はリーマンショックでも繰り返され、アメリカでは4750人自殺者が増え、交通事故死は3600人減った。

健康への影響は他にもアルコール、うつ、公衆衛生予算の削減から来る感染症の増加、健康保険の喪失そしてホームレスの増加など様々な影響を受ける。100年前はニューディール政策が多くの人を救った。アメリカで実施された公衆衛生政策としては最大規模のものである。

東アジア通貨危機ではIMFに従い緊縮財政で予算を削減したタイでエイズによる死亡率が急増し、最初に経済が回復したのは支援を拒否し、社会保護政策への予算を増やしたたマレーシアだった。

リーマンショックではギリシャとアイスランドが好対照を示した。タックスヘブンを目指し銀行とごく一部の国民が投機に走ったアイスランドは2007年には世界で5番目に豊かな国になったがリーマンショック後にはIMFの支援の条件として保険医療関係予算の30%減を突きつけられた。しかしアイスランドの場合政府支出乗数が最も大きいのは保険医療と教育でいずれも3を超え逆に小さいのは防衛と銀行救済措置だった。2010年大統領はイギリスとオランダへの預金の返済を拒否した。リスクの高い投資者への返済を税金で補償する必要があるのか?そのため必要以上の予算削減までのまなければならないのかと。国民が団結したアイスランドは社会保障を維持したまま経済の回復も達成した。

一方で緊縮財政を受け入れたギリシャでは社会的弱者の命と健康が危険にさらされた。失業による自殺者の増加、ヘロインから来るHIV感染者の急増、そして政府は医療事情の悪化を無視し続けた。

自殺やうつを減らすための失業対策としては単純な現金給付よりもスウェーデンなどが実施したALMP、積極的労働史上政策が高い効果を上げた。アメリカのように「履歴書を用意して、シャワーを浴び、スーツを着ること」と言うパンフレットを渡すのとは違い、就職斡旋や職業訓練を実施し①速やかな再就職が可能になり②ジョブトレーナーと2人3脚で取り組むことで、しっかりとした社会支援があると思えることで精神衛生上のリスクを軽減し③失業の不安のある就業者にもなんとかなると安心感を与える。スウェーデンでは失業率が10%以上上昇したのにも関わらず、自殺率は一貫して減少し続けた。この研究によるとALMPに一人当たり190ドル以上の投資をした国では、失業率と自殺率の相関がゼロになっていた。ホームレス対策とともに健康にも経済の回復=財政再建にも効果が大きい。

現在アメリカでは史上最高レベルで失業者が増加している。日本もこれからだが過去の自然実験をぜひ無駄にして欲しくない。

2020年5月7日

読書状況 読み終わった [2020年5月7日]
カテゴリ 社会

CDCが新型インフルエンザ研究用に作成した今日毒性新型インフルエンザの合成情報が漏洩した。合成に成功した余命いくばくもない2人の老科学者がバイオテロを実行する。「今の私の願いはただ一つ。神の審判が下り、世の中の不条理が一気に炙り出された時の光景だ。人はどんな行動をとるのか、為政者はどんなアクションを起こすのか、人間の本性が露わになるその時をこの目に見ることだ。」

2019年11月、テロの対象が滞在した日本海の孤島で発生した新型インフルエンザはわずかの期間に島民全てを殺す。感染力、毒性ともにかなり強力だが外からは何が起きたかはわからない。ワクチンの製造には時間がかかり、有効性が期待される抗ウイルス薬トレドールは未承認で、150万人分の備蓄しかない。年が明け東北の寒村で変異したウイルスが感染を起こした。インフルエンザが一旦流行すれば1週間で100万人が感染することも予想される。では誰を助けるべきか。

日本の特措法ではワクチン接種の優先順位は医療や社会インフラを支える業種を優先する特定摂取と高リスク者や妊婦や子供を優先する住民摂取で優先順位は決まっている。マスコミがこの点を取り上げないのは自分たちも順位は低くても特定摂取の対象だからではないかと言う指摘されている。さらにはワクチンが行き渡るのであれば待つとしても、足りなければどうするかと言うのが本書の最初の命題だ。現実の世界でもスウェーデンは高齢者に対し積極的な延命治療は行わず犠牲は受け入れ、緩やかな自粛で経済的なダメージを軽減する戦略を取っている。

後半では新型インフルエンザは狂言回しの役割へと変わり日本の今の医療保険制度は持続可能かと言うところが命題になっていく。高齢者を長生きさせても50年後には間違いなく人口は減る。今の日本は予算制約を先送りして世界最高レベルの医療システムを維持しているがいずれは破綻する、ではどうするか。経済的に余裕のある高齢者であれば新型コロナの脅威が明らかに高いが、健康な若年層であれば経済的なダメージによる被害の方が大きくなる可能性は十分ある。

現在の人口比で考えれば高齢者を守るのが当然優先されるし、政治的にも高齢者を切り捨てると主張すれば落選し実行はできないだろう。経済的なダメージに耐えかねた自粛解除の要求はすでに出てきているが、概ねその根拠は新型コロナによる致命率はそれほど高くなく経済死の方が多くなりかねないと言うものだが結果がわかるのは数年後だろう。日本政府は5月末までの延長で一旦収束させ時間を稼いでるがどのような決断をするのだろうか。

2020年5月5日

ネタバレ
読書状況 読み終わった [2020年5月5日]
カテゴリ 小説

東京からほど近いC県T市、半島の先のさらに小さな半島のある街で、伝染性の肺炎が発生した。急激に重症化するこの病気はXSARSと名付けられ2人の国立感染予防管理センター隊員は発生源を見つけ「水道の栓を締める」ために調査に向かう。新聞報道で崎浜病と名付けられ周辺の住民は崎浜地区を封鎖にかかる。街には新興宗教団体の施設がありバイオテロの疑いも。最初の感染は一度きりなのか、それとも持続的な曝露なのか。謎の少年は何を知っているのか。

新柄コロナで言えば発生源はP4施設か、海鮮市場の野生動物なのか。最初の患者は誰か。感染者の共通点は何で感染経路はどこかというようなミステリーです。2007年の作品なのでSNSはないがコンピュータウイルス「リヴァイアサン」が現実のウイルスの暗喩として登場する。

作品のアドバイザーはまさかの8割おじさんでした。

2020年5月5日

読書状況 読み終わった [2020年4月22日]
カテゴリ 小説

ふつうに育ってくれれば良いと親は言う、しかしそのふつうは例えば住むところによっても大きく違う。例えば通勤時間、家賃、教育環境などで住む所を選ぶと階層が似た人たちが集まって来てそこには町の文化が立ち上がる。例えばこの街では中2から塾に通うのがふつうと言ったように。それぞれの家庭や地域や学校での教育格差はどうやら小学校に入る前には現れ、ずっと持続しているのが日本の社会だ。日本が特殊と言うことでもなくOECDの報告書からは、どこの国も「生まれ」によって学歴達成格差のある緩やかな身分社会であり、学歴によって社会経済的便益が異なる学歴社会なのだ。少なくとも国際比較が可能なデータでは、日本の15歳の能力は高い。しかし格差という見方をすると平均的だ。教育界で礼賛されることが多いフィンランドを含めどのような社会であっても格差を埋めることは難しい。教育業背だけではなく、税の再配分を含めてどれだけ平等主義的にしても、SESによって15歳時点の学力格差が明確に存在するのだ。

日本では親の学歴と世帯収入は大きく重なり、本書では親の学歴を大卒0、1、2人の3階層に分けて格差の実態をこれでもかと並べている。この元になるのがSES、社会経済的地位という考え方だ。世帯収入だけでなく、経済的、文化的、社会的要素を統合した地位を意味する。似通ったSESの階層では親の子供に対する働きかけ方が似てくる。そして格差は小学校入学前にすでにあらわれ、そのまま維持され、高校では偏差値によって固定化されている。

SES階層の違いによって様々な行動で違いが見られる。親子の大学進学希望率、私立校への進学、1日あたりの学習時間、メディア消費時間、蔵書数、学校活動への参加、親から子への関与の度合い、習いごとの数や塾に通う時期などなど、明確な相関関係が見られるのだ。全国共通の教育指導要領と義務教育は格差を縮める方向に働くが例えば夏休みにはその差が開く。継続して学習する環境があるかどうかと言って良いのかもしれないがどちらも普通の生活を送っている。

私たちにとってはごく当たり前の高校ランキング制度は世界的にかなり特殊だ。義務教育段階で「生まれ」による学力格差を埋めないままの「能力」選別は、SESによる分離(隔離)を制度として行なっていることになるのだ。高校受験に失敗しても大学受験で敗者復活する者もいるが、その生まれは高階層出身者に大きく偏っていた。そして低ランクの高校教師は達成感の無さのためか生徒に期待していない。生徒は諦められている。

これまでの様々な改革と言われるものはこういった現実を見ないものだった。例えばよく言われる大学無償化をしたところでSESごとの元々の格差は埋まらない。経済力だけが大学進学の格差の理由ではないからだ。学校群制度は高校による能力選別の解消を目指したものだったが高学力、高SESの生徒は私学に流れた。結果として同じ学内にロールモデルがあれば高ランクの大学を目指していたかも知れない生徒から機会を奪うことになってしまう。

基本的には「平等」に軸を置いて「公平」をめざす介入か、個人の「自由」による「優秀さ・効率」の追求かという価値の相克に話が戻る。1つの価値軸を重視することは誰かの血が流れることを意味し、同じ扱いでは結果が出ず、選抜という現実があり、データによる現状把握をすると「自己責任」の名の下に格差が拡大する姿があらわになる。

ではどうするか、まずは現状をデータで把握すること、そして教職課程に教育格差のカリキュラムを入れること。少しでもましな対策を取るためには改革の効果を測定しないとできない。

2019年11月18日

読書状況 読み終わった [2019年11月16日]
カテゴリ 社会

中国の歴史上中華の統一を果たしたのは秦の始皇帝だがその範囲は北は万里の頂上、南は長江流域、西は四川盆地といったところで主に中原を中心とした範囲だ。漢の武帝の時代に張騫が西域を平定し、朝鮮、ベトナムまで支配下に置いたのが漢人帝国の最大領土になる。中国の領土が最大になるのはむしろ騎馬民族の隋唐帝国、モンゴルの大元ウルスそして本書の満州人の清の時代で、現代の中国はかなりの部分清の枠組みを引き継いでいる。

東北三省、内モンゴル自治区とモンゴル人民共和国、新疆ウイグル自治区、青海省、そしてチベット自治区は歴史的には漢人支配ではなかった時期が長い。中華世界では対等な外国との通商は基本的には無かった、そこに西洋が入ってきて幕末から明治の日本と同様に清末の中華は西洋の国際的な枠組みに適応していった結果が今の姿につながっていく。

女真族を統一し後金を建国し東北部を勢力下に置いたヌルハチに続き、モンゴルを破り皇帝であると同時にハーンの称号を継いだホンタイジは盛京(瀋陽)で清を建国した。満州という名前はヌルハチのマンジュ部から来ており文珠菩薩に因んだものと言われる。地名が先ではなく女真族が満州人となったのが先だ。

15世紀にツォンカパが発足したチベット仏教のゲルク派はダライ・ラマ3世とモンゴルのアルタン・ハーンの会合を契機にモンゴル部族の中に拡がっていった。モンゴルは今日のチベット自治区一帯を征服しダライ・ラマ5世に寄進しここからポタラ宮の造営が始まる。ダライ・ラマはモンゴル語で大海の如き上人と言う意味である。ホンタイジがモンゴルのハーンとなったことで中華を取り囲む清、モンゴル、チベットという巨大な連合体が生まれた。北京に遷都した清の第3代順治帝はダライ・ラマ5世を相互対等の立場で招聘しその後いろいろあったが、続く雍正帝がチベット仏教を庇護する文珠菩薩皇帝としての名声を高めることになる。モンゴル、チベット、東トルキスタンは同君連合として清の間接統治下の藩部となった。

満州人のアイデンティティを重視した清は中華に染まるのを嫌い今でもモンゴル語、ウイグル語、チベット語には中華の概念は翻訳されていない。雍正帝は自らを夷狄とした上で中華の優位を謳う華夷思想を批判した。雍正帝の使った中外一体とは中華も夷狄も上下の差はなく真の皇帝の元で臣民として平等だという思想であるが結局これが現代中国の版図の正当性を訴える元になっていく。続く乾隆帝の時代に最大の栄華を誇った清は19世紀にはアロー号事件、アヘン戦争を経て思わぬ転落を続けていくことになる。

西洋の国際関係では冊封国は独立国となる。琉球は清と日本に対する二重冊封国だったが国際法の枠組みに先に適応した日本が取り込み既成事実を重ねていった。台湾についても清が化外の地=無主の地と捨て置いたのが日本が占領した根拠となった。そして朝鮮は朝貢国のままで清に事えようとして失敗した。伊藤博文は李鴻章との日清修好条約改正交渉の中で八重山、宮古を清に割譲すると提案し、大戦後も国民党の蒋介石が要求を取り下げなければ沖縄は日本に戻って来なかった可能性が高い。「固有の領土」というのは歴史上のある時点を切り取りそこに近代の国際法を当てはめたものだが辺境はその時々の国際関係に翻弄されている。

夷狄=辺境の国家であった清が中華と一体したことがチベットやウイグルが中国の固有の領土という正当性の元になったのだが、実態としては自治区と言う名で辺境としての管理になっている。清があれほど強大ではなかったり、太平天国がもう少しまともで中華が清から分離独立していたりしたら満州やウイグルやチベットは今頃独立国だったかもしれない。

2019年11月13日

読書状況 読み終わった [2019年11月11日]
カテゴリ 歴史

モンサントがかなりえげつない企業だというのはこの本にも映画が紹介されている、マリー=モニク・ロバンの書いた「モンサント」に詳しい。EPAやFDAを手玉に取り、モンサントの種子が意図せず紛れ込んでしまった農家相手に訴訟を起こし、古くはダイオキシンの安全性データを捏造した。それでも農家は善で企業は悪だと言うように描くのは一方的に感じた。

企業は常に悪者なのか?ファクトフルネスでは犯人捜し本能で人は自分の思い込みに合う悪者を探そうとすると指摘してあったが典型的な悪者は「悪どいビジネスマン、嘘つきジャーナリストそしてガイジン」だ。山田氏は国内農業保護の立場にあり、対するはいかにも悪者のモンサント。構図としてはわかりやすい。では企業は悪者なのか。

日本モンサントのF1品種を育てる契約をした農家は禁止事項や損害賠償について書かれたA41枚の英文?の契約者を「いや、ほとんど読まずにサインした」と山田氏に答えている。また、住化アグロがセブンイレブン向けにJAに米の生産を委託した契約ではJAから栽培を委託された農家について「両者(相手がJAか住化アグロか読み取れない)の間には契約書はなどは存在していないが、農家もまた住化アグロとJAとの間で交わされた契約書内に記された義務や責任を負うことになっていた。」とある。農家が不利な契約を押しつけられたように見えるがこの文章からは判断できない。ついで検査は住化アグロが行い、不合格品は生産者側の負担とすると言う工業製品であればまあ当然の内容について一方的と批判するが企業側の感覚では普通の契約だろう。米の買取価格については収穫終了時に「収穫量、品質、米相場に鑑み、別途協議の上決定する」とあるのだがこれはそもそもJAがもう少しましな契約を結ぶべきなのでは?同じ内容をそのまま農家に押し付けてるのであればJAなどいらないと言う話だ。

GMOについては十分に安全性を確認したのかと言う指摘はその通りだろう。一般的な品種改良は時間がかかることが安全性の確認にもなっている。消費者が選択できるような表示義務をというのも妥当な意見だと思う。ただほかのリスクについてはどうか。例えばグリホサートについて人に対しておそらく発がん性があるグループ2Aに指定されたことが書かれている。いかにも危ないものと読めるがより危険なグループ1に含まれるものにはタバコ以外に日光やアルコール、加工肉などもある。赤肉は同じく2Aだ。量を無視して発がん性のあるなしを議論しても役には立たない。

1代限りのF1種子の価格が数倍になったことを問題視しグラフを載せているのだが単位はドル/エーカーで米やトウモロコシであれば過去20年で20ドルが100ドルになっている。1エーカーは約40千平米種子代の上昇より得られるメリットが明らかに大きいとしか読めない。また昭和30年代に1粒2円だったイチゴの種子が今では40ー50円のF1種子になってしまったともあるがこれの何が問題なのだろうか、全く理解できないのだ。

グリホサートに代わる新たな除草剤として天然の非毒性成分が用いられたファームセイフを輸入したいと書いてあるので調べてみたがその有効成分は酢酸1ー5%と塩酸1%未満、そして水を含む無害な成分80ー95%だった。この除草剤は雑草のクチクラ層を分解し枯れさせると言う事なのだが、効果があるとすれば栽培植物も枯らすのでは。まあ安全性の試験をした上で効果があれば切り替えれば良いだけの話だろうがこんな組成が有効なのだろうか?

一般の農家は手間もコストもかかる自家採種には積極的ではなく米の場合自家採種は約1割にとどまる。企業がF1品種の自家採種を禁止するのはそれを認めると事業として成立させるのが難しくなるからだろう。モンサントのように意図せず育ってしまったものまで訴えるのはやりすぎだが。コ...

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2019年10月2日

読書状況 読み終わった [2019年9月30日]
カテゴリ 社会

国立社会保障・人口問題研究所の将来推計では2065年に総人口は8200〜9500万人になる。直近の出生率からすると中位推計を達成するかどうかも疑問だがこの場合で8800万人と現在の約7割になる、14歳未満が10%、生産年齢人口が4529万人と現在の6割で52%、65歳以上は現在とほぼ変わらず3381万人で38%を占める。出生率が一定の場合はこの後は年齢別の構成比はほぼ変わらない。思い切った少子化対策をするか外国人を受け入れるのか、あるいは人口減を受け入れて社会の構造を全て変えるか、いずれにせよ20年後には大きく変わっているはずで、そうすると経過措置も含めた準備期間は10年〜15年ほどだろう。
会社で言えば今の新入社員が現役のうちに働き手が6割になり、国内需要も同じように減りかねないという話。目先の問題は色々山積みだとしても日本全体で言えばこれがあらゆることに影響する最大の問題のはずなのだ。

本書のテーマの農業に限れば、農業従事者人口と平均年齢は2005年/335万人/63歳、2010年/260万人/66歳、2015年/209万人/66歳だ。2015年65歳以上が133万人、50歳未満は25万人となる。実はこれは将来真っ暗ということではない。現状でも65歳以上が農業をやってるのだ。40年後も65歳以上の人口は変わらないので単純な働き手であればなんとかなる。ただし今の農業だと水やり10年と言われるほど技能の習得に時間がかかる。

問題は熟練者の技術の伝承で、そこでAIの話になるのだが人工知能ではなく、人工知能を含む農業情報科学=AIだった。書名は意図的なひっかけだろう。人工知能=AIについては適用範囲が限定されると考えているようで中心的な話題にはなっていない。ついでに植物工場はコストが高く生産性は高くないと否定的な評価だ。

本書で紹介している事例は簡単に言うと、熟練者の本人も気づいていない暗黙知をモデル化しITを初心者〜中級者の教育に生かすことで、一人前になる期間を10年から3年程度に短縮することを目指している。アイカメラを使い何をどう見ているかを見える化し、外部環境変化はセンサーで測定する。加えて主観的な気づきデータを入力するのが熟練者の暗黙知を見える化するためのポイントだろう。同じような取り組みは工場でもできるし、一部ははじまっている。色や形や匂いに音、そして触覚や味、人工知能でもなかなか勝てない熟練者の技術は確かにあるが、センサーに置き換えやすいものも多い。

それで日本の農業が何を目指すかというと、比較されるのがイスラエルとオランダでいずれも農業の先進国だ。イスラエルは食料自給率が高い農産物の輸出国であり、水不足は点滴栽培で補う。熟練農家は富裕層に属し、キブツの伝統で指導者となる熟練農家を育てる仕組みが特徴だという。広大なビニールハウス、毎日指示をする熟練者と海外からの労働者二人という組み合わせが儲かる仕組みのようだ。

オランダは少人数で、大規模な農場にITを取り入れていることで知られている。施設面積は日本の1/5、生産者数は1/60、単位面積あたりの平均収量は4〜5倍、平均単価は1/3ながら総生産額は日本とほぼ同じ低コスト大量生産が特徴だ。ただし筆者の意見ではオランダは目指すべきではない。規模では周辺国とのコスト勝負になるので熟練者の知恵を生かし、他社には真似できない高付加価値品をめざすべきだという。

ここは新たな就農者をどう設定するかにもよるのではないか。60過ぎて就農する人を考えればコストは勝負できるだろう、2ー3年でものになる作物の栽培が入り口にあっていいはずで、上級者になれば違う農場に移ればいいのだ。いずれにせよ本書のような取り組みは農業以外にも広まっていくはずだ。そうしないと回らなくなるのだから。

2019年8月27日

読書状況 読み終わった [2019年8月26日]
カテゴリ 産業

文在寅の韓国の行動は国際関係から見ると理解し難いが、ポピュリズムが基底にあり国民感情を優先していることは間違いない。これを韓国の国民性と言ってしまえないのは戦前の日本もポピュリズムの強力な圧力に屈していたことからだ。

日露戦争開戦当初、国民の戦争支持は熱心ではなかった。しかし新聞社が戦勝を報道し、戦勝会を主催する中で盛り上がっていった。その行列の解散場所が日比谷公園だ。まだ戦中の1904年5月8日には死者が21名出るほどの熱狂を見せている。新聞社、政党人などを中核に暴力的大衆との結びつきがポーツマス講和条約反対運動、護憲運動、普選運動などを盛り上げたのだが、群衆は警官とは戦っても軍隊とは戦おうとしなかった。その後ろにある天皇の威光と戦うことはないからだ。幕末の武力倒幕から日比谷焼き討ちを経て2・26事件まで構造的には「君側の奸」を打つという思想的な共通性が見られ、天皇をシンボルにした政治利用とポピュリズム化についてはこの後も繰り返しあらわれる。後の5・15事件報道も似たような構造で新聞は元老、財閥、特権階級への批判を正当化し、「小説的・物語的面白さ」はたえず追求されていく。裁判の中でも赤穂浪士になぞらえられ、徳富蘇峰は渋沢栄一だ関東大震災を「天譴」と称したのを持ち出し、5・15事件「人譴」になぞらえ首相暗殺犯の「所信を社会に実行せし」と唱えた。別の新聞は「各被告の同期に至っては、憂国の純情そのものであって、日本国民にして何人か、かりにもこれを憎むものがあろうか。従って動機のみより言えば、却ってこれを表彰こそすべきで、罰するはずはないのである。」とまで書いている。

大正期のポピュリズム的な運動はナショナリズムと平等主義に方向付けられたが、このナショナリズムは排日移民法を受け反アメリカに向けられ、親中国的なアジア主義の高揚が見られた。平等主義については普通選挙の実施という非暴力的な運動の成果が生まれた。ポピュリズムそのものには方向性はなく世論は時には大きく方向を変えていく。

ワシントン海軍軍縮会議では対米7割の支持は2割程度で、対米6割で早期妥結支持が6割あった。海軍は対米7割を達成できなかった理由を世論形成の失敗と捉えロンドン会議では新聞社に協力を要請する。海軍の意向に新聞が踊った結果、世論は対米7割を絶対視するようになったが、最終的には財政上の影響と国民負担の軽減を持ち出し新聞は妥結を支持する。国際協調主義の財部財相、若槻全権の帰国を大歓迎で迎えた国民はわずか3年後にはリットン調査団報告書受諾拒否共同宣言を全国132紙が一斉に出したことも影響s、国際連盟脱退の松岡全権を大喝采で迎えることになる。

1931年の陸軍軍縮期には軍人は厄介者扱いをされていた。軍縮を支持していた朝日新聞は満州事変勃発後不買運動の拡がりに大きく部数を落とし、満州事変支持に転向する。これに対し当初より満州事変を支持していた毎日は部数を伸ばしていっていた。戦争と、その大々的報道という「劇場型政治」が展開され、世論は急速にその支持に傾いていった。対外危機は大衆デモクラシー状況におけるポピュリストの最大の武器である。

「最低でも県外」と訴えた鳩山由紀夫はポピュリズムの失敗例だろう。民主党への期待は裏返り政権を取ることだけが求心力だった民主党は解体した。民主主義である以上ポピュリズム的な要素は常にあり、合理的な判断が優勢な間は大きな問題にはならないだろう。ただ小選挙区制では支持率の差以上に議席数に差がつくのでポピュリズム的な手法はやはり魅力的なのだ。国際的な関係の中で現実的な最適解がポピュリズムの求める方向と一致しない場合には気をつけたほうが良い。

2019年8月31日

読書状況 読み終わった [2019年8月25日]
カテゴリ 政治

貴金属を取り入れて貨幣が発展したヨーロッパとは違い、中国では銅、錫、鉛と言った卑金属が貨幣の材料として使われてきた。印刷技術も唐代にはできており重くて運びにくい貨幣に代わる紙幣はフビライ・ハンの時代に現代の姿に近づいたがインフレのため15世紀には姿を消し19世紀まで再び現れることはなかった。

ヨーロッパでは1664年にストックホルム銀行が、1694年にイングランド銀行が銀行券を発行した。しかしイングランド銀行の銀行券が法定通貨としての地位を確立するのは1844年の銀行法までかかる。世界で初めて本格的かつ近代的な不換紙幣を発行したのはアメリカだ。1729年当時23歳のベンジャミン・フランクリンは「紙幣の本質と必要性に関する愚考」を自費出版した。その後紆余曲折を経た紙幣は何度もインフレにさらされ1973年にブレトン・ウッズ耐性の崩壊により本格的に不換紙幣に切り替わった。

本書のテーマは特に高額紙幣を廃止することで決済の透明性を高めることができ、脱税や犯罪の防止に大いに役立つことと、中央銀行がマイナス金利政策を効果的に取るようにできることだ。

2015年の米ドル換算の現金保有高はスイス8759$、日本6456$、アメリカ4172$、ユーロ圏3391$などだ。もっとも国外保有高の多い米ドルにしても50%程度なので、平均値と中央値はかけ離れている。おそらく相当な額の現金が地下経済を流通していることになる。地下経済のGDP比はアメリカ7%、日本9%ヨーロッパ主要国で10〜20%という。ただしこの推計では非合法・市場外の経済は含めておらずあくまで所得税や消費税などの脱税の規模を計るのが目的だ。アメリカでは税収ギャップが4500億$あり、現金取引の個人事業主の過少申告がその半分を占める。

脱税以外にも汚職や犯罪の取引などには特に高額紙幣が欠かせない。匿名性、使い勝手の良さ、輸送や保管のしやすさなどがその理由だ。本書ではまず高額紙幣を廃止することを提案しているが、そうなった場合例えば金での取引あれば最後の現金化がネックになるし、少額紙幣だと持ち運びが大変になる。個人の現金決済は主に100$未満の少額決済で現金が好まれているのに、現金保有高は主に高額紙幣なのでスマホ決済などのインフラを準備すればおそらく高額紙幣を廃止しても日常生活の不便はない。実際に中国では既にスマホ決済が主になっている。元々100元札(14$)が上限で偽札も多くクレジットカードは使われてないところにスマホとwechatの普及で一気に広まった。カナダ、シンガポール、スウェーデンなどは実際に最高額紙幣は廃止された。例えば最終的に重くて大きい5$硬貨以下になれば高額の現金決済は大きく制限を受ける。また電子取引は全て追跡可能だ。

紙幣をなくすもう一つの狙いがマイナス金利政策だ。伝統的な金融政策はゼロ金利化では利下げが機能しない。期待インフレ率に働きかけるという触れ込みの量的緩和についても日銀とECBの実績を見る限り「無制限のマイナス金利が可能な場合に取りうる標準的な金利政策ほどの効果はなかった」。アメリカのQE1では1時間の間に国債利回りが0.4%下がった。しかし長期的な効果についてははっきりしない。日銀はGDP比70%を上回る水準まで国債を買いまくったが、今のところインフレ押し上げ効果は短期的にも、長期的にもぱっとしない。インフレ目標値を短期的に大幅に上回ってもやるんだという強い意志を示していればもう少し違っていたかもということだが。2015年の執筆中の段階では量的緩和がインフレ誘導にどの程度効果があったかどうかもよくわからない。

マイナス金利はインフレ誘導に対して効果がありそうだが、現金の保有に誘導してしまう。そのため特に高額紙幣の廃止が効果的と言うのが本書の主張だ。現金の物理的な保...

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2019年8月16日

読書状況 読み終わった [2019年7月25日]
カテゴリ 経済

プラナカン(peranakan)、地元マレーの言葉で「その土地で生まれた子」という意味である。プラナカンの男性をババ(Baba)、女性をニョニャ(Nyonya)と呼ぶ。

とあるのだがマレーーインドネシア語でanakは子供、基本中の基本の単語だ。perーanと言う共接辞をつけると動作やプロセスを表す名詞となり、良くあるberと言う接頭語に対応するらしい。beranakは子供を持つと言う動詞、peranakanは検索では子宮が出てくる。BABAはbapak(Mr.)の転用だろうか、ニョニャはそのままだが。

プラナカンはただの華人ではなく祖先がマレー人などと結婚している。ちなみに華僑は中国共産党の定義では中国国籍を持つものの呼び名で、国籍がないのは華人。また客家は華人の約1/3を占め中国の中原から南へと移住した集団で独自の文化を持ち客家語を話す漢民族の集団だ。wikiではシンガポールの初代首相リー・クアンユーは自叙伝に基づき客家系華人の4世と書かれているがこの本ではプラナカンとしての出自を隠していたと紹介されている。

1965年のシンガポール国会で同じくプラナカンの女性議員シュー・ペクレンの質問に対し、リー・クアンユーは「私のことを、その名前で読んで欲しくない」と公式に答えた。シューの質問の意図は「異なる民族、文化、宗教が融合したプラナカン」と言うアイデンティティがシンガポールと言うハイブリッド国家を象徴すると肯定的に捉えたのに対し、リーはプラナカンと言う言葉に含まれる「この地で生まれた外国人」と言うニュアンスを否定的に捉えた。プラナカンは宗主国であるイギリスの支配層に取り入ったエリート集団でもある。リーは自分のことを「マラヤの民」と呼んだ。

この辺りはインドネシア語の感覚ではよくわからない。ババ・マレー語と言うプラナカンの言葉があるので意味が違ってくるのだろうか。著者の太田氏は2015年から3年間シンガポールに駐在した日経記者で取材対象のプラナカンとはおそらく英語での会話は苦労しない。だからかマレーーインドネシア語との違和感は感じていないように見える。

マラッカのババ・ニョニャ・ヘリテージ博物館でとなった家で生まれたヘンリー・チャンは後に大陸から労働者として大量にやってきた新客とプラナカンを区別するのは血筋ではなく、文化だと言う。「文化とは教育であり、品位や礼儀でもあり、経済力でもある」、紹介されているプラナカンの文化は刺繍だったり装飾だったりが女性的と形容されているが、良く言えば貴族趣味、悪く言えば成金趣味な感じがある。客家自体が王朝の血筋のものが多く、独自の文化を守ったとある。現地の支配層と結びつきながらも独自の文化を守り続けたプラナカンは労働者階級ではなかったようだ。シンガポールプラナカン協会の定義ではマレー系の血筋が1/16以上、ババ・マレー語を話す、4世代以上遡って現地化しているなど厳格だ。

東南アジアのプラナカンの街といえばシンガポール、マラッカそしてペナンと言う海峡植民地だ。そしてもう一つ人口の70%がプラナカンなのがタイのプーケットだ。しかしプーケットではタイ人と結婚した華人の子孫は全てプラナカンでありそこに独自の文化を守ると言う意識はない。さらにインドネシアに行くと定義もはっきりしない、あえて言えば地に落ちた(土着化した)華人だ。

プラナカンの政治家でタイの外務大臣タナット・コーマンが生み出したものがある。ASEANがそれだ。東南アジアに生まれたよそから来たこどもがばらばらだった国を結びつけたのだ。

2019年5月9日

読書状況 読み終わった [2019年5月9日]
カテゴリ 国際

ユヴァル・ノア・ハラリは新たな人類の課題は不死と幸福と神聖の獲得であり、ホモ・デウス(神)を目指すのだと予言する。2016年の世界の平均寿命は72歳、40年間で10歳伸びた。100年前には30代前半だったがスペイン風邪の大流行のため20代に落ち込んだこともある。現在の世界人口は76億、2100年には110億になると予想されているが子供の数は今と変わらない。現在女性1人あたりの子供の数は2.5人。すでに子供の数の増加は横ばいになっている。

15歳ごとに区切ると30歳までの人口が40億、75歳までに15歳ごとに各10億というのが現在の姿だ。2060年、今の30歳はほとんど死なずに75歳になる。この時の人口が約100億だ。世界人口は120億で安定すると言われている。つまり平均寿命は90歳にはなるというのがごく一般的な見方だ。日本の平均寿命は84歳なので乳幼児死亡率の高い国の経済が発展し社会インフラが整えば現在の技術レベルでも90歳というのは普通に達成できるレベルということになる。

Die革命はさらにその先の世界だろう。平均寿命が105歳になれば人口は140億に120歳になれば160億になる。「すべての病気を克服してしまうのが、『医療の完成』だとするならば、現在は9合目まで来ている」。エイズはすでに治療可能な病気になっている。がん治療では分子標的薬や光免疫療法などがんを克服する治療法が着実に成果をあげている。

最後の1合には最も困難な3種類の病気が残る。
1 発見・アプローチが難しい病気
2 症例が圧倒的に少ない病気
3 急死

https://www.japan-who.or.jp/act/factsheet/310.pdf
ファクトフルネスのレビューに同じことを書いたのだが2016年の世界の死者数5670万人のうち300万人が亡くなった感染症のトップは下気道感染症(気管支炎や肺炎)、次いで140万人が亡くなった下痢性疾患、130万人が亡くなった結核が死因のトップ10に入る。また道路交通障害140万人が最大の傷害となっている。自然災害は恐ろしいものだが死因の0.1%に過ぎない。高齢者が恐るべきは誤嚥性肺炎ということになる。年寄りは歯を磨こう。

Die革命の最初の課題は最大の死因である虚血性心疾患(心筋梗塞・狭心症)、脳卒中などの急死を防ぐことだろうか。「近くに人がいない孤立した環境は容易に『急死』を呼び込んでしまう」日本では奥さんの書いているように医療を支える財政の方が問題だろう。ITの発展で急死の原因を自動で通報できるようになったとしても物理的な移動手段が維持できるかと言った問題は残る。またAIによる診断が実際には生身の医者を超えていたとしても誤診を許せるかは社会が受け入れられるかだ。自動運転が当たり前になれば急死にも効果的に思えるがこれも同様だ。

この本でも紹介されていた遺伝子を編集する「神のハサミ」クリスパーcas9を発見したジェニファー・ダウドナは自書で「科学者よ、研究室を出て話をしよう」と結んでいる。遺伝子編集という画期的な技術を社会全体が受け入れられるのかはまだわからない。そして人生150年となったとして長寿を積極的に受け入れるには個人と社会の財政的な裏付けが必要だ。それでも最初の一歩はそれがすでに起こった未来だと知ることからだろう。本書もその一つ。

2019年5月26日

読書状況 読み終わった [2019年5月4日]
カテゴリ 医学

ギャップマインダーテストは2017年に始動した。質問は13問で全て3択。www.gapminder.org/test/2017に質問がwww.gapminder.org/test/2017/resultsに回答がある。
全問正解した人にとって本書に目新しいことは書いてないかもしれない。

2017年に14カ国、1万2千人に行った調査では最初の12問に対し全問正解者なし、11問正解が1人、チンパンジーがランダムに答えても正答率が33%になるところがチンパンジーに勝ったのはわずか10%だった。やってみたところ9問正解でいずれも知っていたか予想できた。2問はパッとみて間違えたがちゃんと回答を読めば知っていた問題。2人目になりそこねたようだ。

事実を見ず間違った判断に導く10の本能

分断、1965年の世界では先進国と発展途上国では明らかな差があった。しかし今ではほとんどの人がこの中間にいる。

ネガティヴ、昔は良かった?そんなことはない。例えばアメリカの犯罪件数は1990年の1450万件に対し2016年は950万件だ。

直線、過去の延長に直線を引いても未来はわからない。グラフは直線も対数もS字もある。
「貧しい子供を助けると、人口はひたすら増え続ける」いや、「貧しい子供を助けないと、人口はひたすら増え続ける」が正解だ。

恐怖、テロや自然災害に飛行機事故というものを必要以上に恐れる必要はない。2016年の世界の死者数5670万人のうち300万人が亡くなった感染症のトップは下気道感染症(気管支炎や肺炎)、次いで140万人が亡くなった下痢性疾患、130万人が亡くなった結核が死因のトップ10に入る。また道路交通障害140万人が最大の傷害となっている。自然災害は恐ろしいものだが死因の0.1%に過ぎない。高齢者が恐るべきは誤嚥性肺炎ということになる。年寄りは歯を磨こう。

過大視、2016年420万人の赤ちゃんが亡くなった。大変な数字だが死亡率は3%で1950年の15%から大きく改善し続けている。大きな数字は単独で見ずに比較をしよう。

パターン化、宿命、単純化、犯人捜しそして焦りが残りの5つ。事実を正しく見るためのテクニックが各章ごとに紹介されている。

導かれた答えはいろいろ。女性に教育の機会を与えることは、人類史上最もすばらしいアイデアのひとつだ。世界中で、子供の生存率が伸びている原因を調べてみると、「母親が読み書きできる」と言う要因が、上昇率の約半分に貢献している。50年もすればアフリカの人たちは難民ではなく観光客としてヨーロッパに歓迎される存在になる。世の中で一番悪者扱いされるのは悪どいビジネスマン、嘘つきジャーナリスト、そしてガイジンだ。

ファクトフルネスを学ぼう。いつやるか?いまでしょ!
最終章のヒントは今やらなければならないことはそんなにないと知ることだ。

2019年5月6日

読書状況 読み終わった [2019年5月4日]
カテゴリ 科学

我々はイデオロギー、時間、空間などに無意識のうちに束縛されている。戦後史の始まりには日本国憲法の起草があった。どのようにしてこの憲法が定められたかについても束縛された視点からは一面の真実しか見えてこない。この束縛から逃れ視点を解放しようと言うのが本書の目指すところだろう。細谷氏は「今の日本には、希望が足りない」と言う。戦後の日本人が感じてきた希望を追体験しようとするのが本書のもう一つの試みだ。

ジョージ・オーウェルは「否定的な感情」を元にしたイデオロギーを「ナショナリズム」と定義して攻撃した。この中には共産主義や反シオニズムだけでなく平和主義も含まれる。「いかなるナショナリストも、可能なかぎり、事故の勢力単位の優越性以外のことは、考えたり、話したり、書いたりしない」他方で「自己の単位を少しでも軽蔑したり、競争相手を暗にほめるような言葉を聞かされると、心平らかざるものを覚え、語気鋭く反駁しないではおれない。」 そう、今の世界はナショナリストにあふれている。オーウェルは攻撃的なナショナリストに対し「自分では世界中で一番いいものだと思うが他人には押し付けようとは思わない、特定の地域と特定の生活様式に対する献身」を「愛国心」と定義した。戦後の日本を形作る上で国際協調を基本とするリベラルな国際国家の路線に舵取りをした、幣原、吉田、芦田をオーウェル的な愛国者と位置づけ再評価しようとしている。

歴史認識とは何かにも書かれているが、そもそも歴史的事実として8月15日に終わった戦争は存在しない。東アジアでの戦後は10年がかりの一連の複数のプロセスだ。戦後のアジア各地域形成の原点であり、アメリカが本格的にアジアに関わりを始めた。戦後の日ソ関係と言う観点ではは8月15日以降も続いた『日ソ戦争』が大きな意味を持った。終戦時、外地には日本の総人口の1割に当たる688万人が居留しており、うち321万人が民間人だった。ポツダム宣言を受諾した大東亜省が送った方針は「居留民はできうる限り定着の方針を執る」である。日本政府は外地居留民を保護する意思と能力を欠いていた。その結果もっとも大きな困難に直面したのがソ連軍と対面することになった満州などに暮らす200万人だった。居留民にとっては日本に帰国してからが戦後の始まりだった。

日本軍が居なくなった後の力の真空では中国の国共内戦、朝鮮戦争など一連のプロセスが続く。「われわれが慣れ親しんでいる戦後史とは、そのような大日本帝国崩壊に伴う混乱と戦争を忘却することによって、あるいは無意識のうちに戦前と戦中の日本軍の活動との関連性を切断することによって成り立っている。」

対日占領ではアメリカのマッカーサーが圧倒的な存在感を示しており、またGHQがアメリカ政府の意向に沿って対日占領政策を進めていることに、ソ連政府は意義を唱えようとしていた。北海道の北半分の分割統治を一度は要求していたソ連だが、その後の外相階段ではあっさりとアメリカによる間接統治に賛成した。ソ連の狙いは日本への要求の引き換えにウラン鉱山のあるブルガニアとルーマニアをソ連の勢力下に置くこと。アメリカとソ連のそれぞれの思惑があったにせよ、戦後日本の再出発は東欧の犠牲の上に成り立っているとも言える。

戦後日本が後継首相を選ぶにあたって、何よりも重要なのは、対日占領を実質的に仕切っているアメリカ政府の協力が得られる人物かどうかとなった。その中で選ばれたのが、幣原、吉田、芦田と言った元外交官であった。主権を回復し吉田が退任した後には外交官出身の首相は一人もいない。幣原と吉田に共通していたのは戦後日本が再出発し、新国家を建設する上で、国際社会=英米からの信頼を回復することを何よりも重視していたことである。その幣原の目標は天皇制の維持であり、当初は憲法についても改正は必要なしと言う意...

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2019年4月28日

読書状況 読み終わった [2019年4月20日]
カテゴリ 歴史

意味と権威の源泉としての神の役割は、現代では人間至上主義に取って代わられた。人間の自由意志こそが最高の権威であると。中世のヨーロッパでは知識=聖書x論理だった。どれほど論理の力があっても聖書を読んでなくては役には立たない。次に科学革命が新たな公式を与える。知識=観察に基づくデータx数学だ。しかし科学の公式は価値や意味に関する疑問に対処できない。人間至上主義は新たな答えを提供した。知識=経験x感性だ。極めて当然な公式にみえるのは自分が無意識に人間至上主義を信奉しているからなのか。

人間至上主義は3つの主要な宗派に別れている。正統派は個人の自由意志は国益や宗教の教義よりもはるかに大きな重みを持つべきだと考える。いわゆる自由主義だ。そこから産まれた分派が社会主義的な人間至上主義とナチスに見られる進化論的な人間至上主義だ。20世紀初頭にはファシズムと共産主義が猛威を振るい1970年代では未来は社会主義のもののようにも見えた。2016年の時点で個人主義、人権、民主主義と自由市場という自由主義のパッケージの本格的な代替となりうるものは一つもない。

それでは、人間至上主義はどこに行き着くのか。生命科学は自由意思は生化学的なアルゴリズムの集合によってでっちあげられたと主張する。自由意思など妄想に過ぎないと。

科学技術の発展は別の方向から個人の価値に脅威を与える。一つ、人間は軍事と経済面での有用性をすでに失いつつある。近代以降の戦争や労働集約的な工業社会では人手こそが価値を持ち、民主主義は兵士や工員にモチベーションを与えるために広がったという側面がある。現在では大量の兵器と兵士よりも少数の高度な兵士と最新テクノロジーが好まれる。ドローンとサイバー戦争だ。経済的にもAIに仕事が奪われる未来が予想されている。

AIは進化し、もうすぐ悩みの相談相手がSIRIになるかもしれないという。将来的には経済や政治で人々とが何を望むかもフェイスブックが知ることになる。誰が何にイイねを押したかが直接測られる。せいぜい2千件程度の電話調査など意味をもたなくなる。これが二つめの脅威だ。集団としての個人はマーケティング対象としての価値を失わないが、その中で個人の権威は埋没してしまう。

多くの人々の価値が失われる一方で、一部の人は絶対不可欠な少数のエリート特権階級にアップグレードされる。2016年の時点で最富裕層62人の資産合計は人類の下位半分36億人の資産に匹敵する。巨大な開発途上国のエリート層はその国の競争力をあげるために、何億人もの貧しい人々の問題を解決するために投資するだろうか?少数の超人エリート層を育てる方がより効率的な方法かもしれないのに。「もし科学的な発見とテクノロジの発展が人類を、無用な人間と少数のアップデートされた超人エリート層に分割したなら、あるいは、もし権限が人間から知能の高いアルゴリズムの手にそっくり移ったなら、その時には自由主義は崩壊する。」

その先に待つのはホモ・デウスを生み出すためにテクノロジーを使うべきだとするテクノ人間至上主義かデータを崇拝するデータ至上主義か。データ至上主義にとっては情報は共有すべきものでグローバルなデーターベースを豊かにすることが価値となる。もはや人間の経験には本質的な価値はない。全てはアルゴリズムの中に吸収されていく。

ここまで書いておいてユヴァル・ノア・ハラリは最後に問いかける。
1生き物は本当にアルゴリズムにすぎないのか?そして、生命は本当にデータ処理にすぎないのか?
2知能と意識のどちらの方に価値があるのか?
3意識は持たないものの高度な知識を備えたアルゴリズムが、私たちが自分自身を知るよりもよく私たちのことを知るようになったとき、社会や政治や日常生活はどうなるのか?

2019年3月24日

読書状況 読み終わった [2019年3月11日]
カテゴリ 進化

テクノロジーは人間を神にアップグレードできるのか。遺伝子操作によるデザイナーベビー、サイボーグ工学やAIによる身体の拡張など要素技術は進み続ける。飢饉、疫病と戦争は人類が取り組むべきことのトップ3であり続けたが、この数十年では神に祈らなくとも対処可能な問題に落ち着いているように見える。新たな人類の課題は不死と幸福と神聖の獲得だとユヴァル・ノア・ハラリは予測する。ホモ・サピエンスはホモ・デウス(神)を目指すのだと。

60年前、大躍進政策下の中国では少なくとも3千万人の餓死者が出たと見られている、しかし現代では過食は飢饉以上の問題になっており2010年に飢饉と栄養不良で亡くなった百万人に対し肥満で3百万人がなくなっている。100年前スペイン風邪で5千万人から1億人が亡くなったと見積もられているのに対し、累計3千万人の死者を出したエイズも今では金銭的余裕があれば慢性疾患となった。それ以外の抗ウイルス薬の開発も進み続け、特定のガンは致命的な病ではなくなりつつある。古代の農耕社会では死因の15%が暴力によるものだったが現在では1%だ。第一次世界大戦の死者数は約4千万人、第二次世界大戦では5〜8千万人だが、2010年のテロによる死者数は7696人、自殺者が80万人で糖尿病が150万人。平均的なアメリカ人にとっての脅威はテロよりもコカ・コーラなのだ。

ホモ・デウスは全知全能の神と言うよりはギリシャ神話の神々だ。本書では個々の人間がどう思おうが人類全体は寿命を延ばし、人間至上主義はホモ・サピエンスの生命と幸福と力を神聖視するようになると予測する。伝統的な一神教の世界ですら宗教は人間を神聖視している。例えばキリスト教では人間は他の被造物の支配権を造物主に与えられたとする。そして神は人間だけに不滅の魂を与えた。
進化論は不滅の魂などないと切り捨てたが、ホモ・サピエンスだけが特別な存在だという証拠はある。人類だけがこの世界に意味を与える共同主観的な虚構、つまりイデオロギーを信じることができる。そこから生まれた共産主義、自由主義、民主主義やナチズムといった新たな形の人間至上主義が生まれた。

上巻ではホモ・サピエンスが世界を征服し、世界に意味を与えたことを見てきており、下巻では科学と人間至上主義との新たな契約の理解から人間至上主義の行方を追う。

2019年3月24日

読書状況 読み終わった [2019年3月11日]
カテゴリ 進化

始まりは神戸1962、徒手空拳、アイデアだけのフィル(バック)・ナイトはタイガーを売らせて欲しいとオニツカ(現アシックス)に飛び込んだ。アディダスが独占する北米のランニングシューズ市場に、安くて品質の良い日本製を持ち込めばいけるんじゃないか!カメラがうまくいったのだから靴だって。とはいえバックは世界一周旅行の途中でもあり、目的の日本の前にはハワイで3カ月近くサーフィンを楽しんだりもしている。

とにかくオニツカはバックを代理人と認定し前金50ドルでサンプルを送ると約束した。金は振り込まれ12足のシューズが届いたのは1年後だった。1963年のバックは地味に重要なキャリアを積んでいる。会計士の資格を取り収入基盤を手に入れた。のちに妻となるペネロペ・パークスと出会ったのは輸入業のかたわら収入を得るために助手として働いた大学でだ。倍々ゲームで成長を続けるブルーリボン社の弱点はキャッシュフロー、売れて喜ぶのはオニツカでバックたちの商売は回り続けるが危なっかしい。「会計士としての私にはリスクが、起業家としての私には可能性が見えていた。そこで私はその中間をとって、とりあえず進む事にした。」

バックの重要な資産となったのがオレゴン大コーチでのちにアメリカオリンピックチームのコーチになったビル・バウワーマンだ。タイガーのサンプルを気に入ったバウワーマンは共同経営者に名乗り出た。靴を良くするための多くのアイデアはバウワーマンが出したものだし、彼の弁護士ジャクアはオニツカとの対決では交渉役を務め、ジャクアの義理の兄チャック・ロビンソンは日商岩井との提携、中国進出そして上場と重要な場面でバックにアドバイスをした。

バックには徐々に仲間が集まってくる。手紙魔のランナーで安月給でも働き続けるナイキの名付け親ジェフ・ジョンソン、トラブルシューターで最後に頼りになる車椅子のボブ・ウッデル、PWcの先輩でのちにナイキで働くヘイズとオニツカの裁判からナイキの仲間になった弁護士ストラッサーなど。そしてのちに対決するオニツカではフジモトがバックの情報源となった。

1971年ブルーリボンの売り上げは1300万ドルに達したが、銀行は新たな融資を拒否しオニツカは買収を提案してきた。呑まなければ別の代理店に切り替えると。当面はオニツカを繋ぎながら自前のブランドの準備が始まった。ナイキの誕生だ。

新生ナイキには日商岩井が大きな支援をしている。資金を出しオニツカに変わる日本の靴メーカーを紹介したのが始まりだ。ポートランドオフィスでは世界中の工場をよく知るトム・スメラギがバックを支援し続けた。ニッショーファースト、まず日商岩井に払えその裏でスメラギは金回りに苦しむナイキのためにわざとインボイスの発行を遅らせ実質的なサイトを伸ばしていた。ナイキが不渡りを出した際に融資責任者のアイスマン・イトーに問い詰められるとスメラギは彼らが好きだから助けたと告白する「ナイキは私にとって我が子のようなものです」

銀行を始めとする債権者達を前にイトーが宣言する。「日商がブルーリボンの借金を返済します。全額」イトーに礼を言うバックへの返事はこうだ。「何とも愚かなことです」「私は愚かなことは好みません、みんな数字ばかりに気をとられすぎです」バックではなく銀行のことだ。二人のサムライがバックを支えていた。

ナイキのアイコンといえばジョーダン、コービーそしてオニツカではないタイガーが思い浮かぶ。そのタイガーが使ったことで花開いたトップブランドの開発初期を隣の研究室で見ていた。ひょっとしたら自分が担当していた可能性もなくはない。ゴルフシャフトのディアマナだ。当時の社長は皇芳之さんでその弟がトム・スメラギこと孝之氏。世界は繋がっているのだな。

2019年3月1日

読書状況 読み終わった [2019年2月28日]
カテゴリ 人物
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