虚ろな十字架

著者 :
  • 光文社 (2014年5月23日発売)
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   【死刑は無力】
中原道正の元に突然警視庁の刑事佐山が訪ねて来た。
あの時に捜査を担当した佐山…。
事件後離婚した妻の小夜子が路上で刺殺されたと言う。
道正と小夜子は11年前殺人事件の被害者遺族になった。
小学2年の愛美を蛭川和男に殺されたのだ。
蛭川は、強盗殺人などで無期懲役の判決を受けて、半年前に仮出所していたのだ。
中原は事件の呪縛から逃れられず目を逸らして生きて来た。
しかし、小夜子も事件の呪縛から逃れられなかったが、
逆に真向から立ち向かって行動していた。
『死刑廃止論という名の暴力』を出版しようとしていた。
中原は、離婚後の小夜子の足跡を追っていく……。


とても、重い問題を投げかけた作品でした。
無期懲役で服役しても改悛の状がある時は10年を経過した後、仮釈放される。
そして、再犯率は高い…。
被害者遺族はひたすら死刑を望み、たとえ死刑が確定し裁判が終結しても何も
変わらない。それどころか喪失感が増したように感じる。
死刑判決を受けても、全く罪と向き合うことなく、反省も謝罪もせず、ただ自分
の運命にしか関心のない者。
罪の意識に苛まれ、苦しみながら毎日を過ごしまた、誰かを救っている者。
それぞれの事件に色々な背景があり、それぞれ事情が違う。
どもひとつも同じものはない…。
人が作った司法・刑罰制度…罪の重さをはかる基準の曖昧さ。
人が人を裁くという事が如何に難しい事か…。
罪を償うってなんだろう…。

一体どこの誰に『この殺人犯は刑務所に○○年入れておけば真人間になる』
などと断言出来るだろう。殺人者をそんな虚ろな十字架に縛り付けることに、
どんな意味があるというのか。

沢山の事をとても考えさせられる作品でした。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ミステリー
感想投稿日 : 2016年2月25日
読了日 : 2014年10月18日
本棚登録日 : 2016年2月25日

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