潮騒 (新潮文庫)

著者 :
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感想 : 954
4

古代ギリシャのイメージと重なる「神々」を題材にした圧倒的な自然の美の中で繰り広げられる若い男女の青春恋愛小説。

三島作品を読むのはこれで4冊目となるのだが、三島の論理を重じて、整然とした一種の建築物のような印象を与えるこの構成美は自分の心の中にある領域をしっかりと確立して、自分からは離れがたいものとなっている。

その中でも今回の潮騒は三島作品の中でも比較的に素直で読みやすく、狙ってこのような清らかな印象を与えようとしているのかなと感じた。その清楚さは自然の美しさを存分に感じさせるが、エロスや残酷さをあまり感じさせない三島の描写から感じることができる。また主要人物二人の「新」治や「初」江といった名前からも初々しい恋愛といったものも読み取ることができる。

三島はこの小説をギリシャ旅行に行った後にすぐ執筆している。どのような感銘を受けたかは憶測するしかないが、古代ギリシャの様々な神への信仰というのに直に触れて、戦後自分が属している社会の人々の生き方と比較したのではないかと思う。

現代にも言えることだが、戦後から私たちは自由になったと感じている人が多いと思う。しかし、一方では私たちは「自由の刑」に処されているという見方もできる。というのも、私たちはあらゆる選択を自分の意思で選ぶことができるが、その選択は責任を伴う。そのような中で、自分の中に何か指針がないとこの自由は不安や恐れを生むのである。

そこで三島はそういった人達に古代ギリシャの人々やこの小説の舞台になった自然を崇拝する歌島の人々に意識を向けてみてはどうかと伝えているのではないか?

自分の中に何か信仰や信念がある人達はその道徳の中で不安や恐怖を感じることなく自由であるし、自分の進むべき道を決めて生きていけるのではないだろうか 

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2020年6月24日
読了日 : 2020年6月24日
本棚登録日 : 2020年6月24日

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