ケーキ王子の名推理 (新潮文庫nex)

著者 :
  • 新潮社 (2015年10月28日発売)
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感想 : 191
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新潮文庫のサブレーベル、新潮文庫nexの作品。
なかなかの人気作らしく、本書を1冊目としてシリーズ化されており、現在5冊目まで出ている。

主人公・有村未羽(ありむら みう)は、ケーキが大好きな高校生。仲の良い両親と、姉・妹の5人家族。昭和の家庭かというほどわいわいがやがや明るい一家である。
もう1人の主役は、同じ高校のイケメン王子、最上颯人(もがみ はやと)。女子には極端に冷たく、冷酷王子とあだ名されている。実は世界一のパティシエを目指しているが学校の皆には内緒である。

ケーキが好きすぎることが原因で、未羽が初デートの相手に振られた日、それまで接点のなかった2人が出会う。傷心の未羽が迷い込んだ先が、颯人のバイト先のケーキ屋さんだったのだ。
ケーキ大好き女子高生と冷酷イケメンパティシエ。
距離が縮まりそうで縮まらなそうで。邪慳なようで優しいようで。
ぶつかり合いながらもちょっとときめく。そこに甘いスイーツが絡む。
王道のラブコメである。

収録作は短編4作。
「ショートケーキ」「コンベルサシオン」「オペラ」「ティラミス」、いずれもケーキの名がついているところが心憎い。
もちろん、それぞれのケーキがキーとなるショートストーリーなのだが、本作、タイトルに「名推理」と入っているように、謎解き要素もある。日常の謎的なちょっとしたものなのだが、それが、時に颯人により、時に未羽により、解き明かされる。その爽快感と甘いケーキの香りが、ふわりとした幸せ感を残す。
各章の最後に、表題のケーキの簡単な解説があるのも気が利いている。

個人的な好みとしては、(ちょっと甘いが)「ショートケーキ」が一番よかっただろうか。2人の出会いに加えて、未羽がそもそもなぜケーキ好きになったかも描かれる。
「コンベルサシオン」は、謎部分がちょっと考えにくい展開で、あまり現実味が感じられない。主題のケーキの特徴的な存在が先にありきで、「作ったお話」感がある。
「オペラ」では颯人とつきあっている(実際はつきあっているわけではない)ことが高校の皆にバレた(誤解された)未羽が陰湿ないじめにあう。謎解きにもケーキが絡んで力作だと思うが、力技感も否めない。何より自分の好きな男の子が別の子とつきあっていたからといって、こういう不毛なことをするというのが理解できない。こんなことをかばう人物がいるのも納得いかない。とっさにかばったにしては、だましのトリックが少々手が込みすぎているし。
「ティラミス」はパティシエコンクールの舞台裏も描かれ、なかなかおもしろい。颯人がどうして女子嫌いになったかの過去の話も含む。彼の「変化」がきっかけで、周囲の態度が激変したというのだが、まぁそんな目にあえば人間不信にもなるかもなと思う一方、そもそもの「変化」自体が、「え、そんなことあるのか?」と思う展開で、「作り話」感があり、納得しきれない。

ところどころ違和感はありつつも、甘いケーキと甘々には進まない恋の話はなかなか相性がよい。一話読み切りとしても読めつつ、全体としての流れもある構成は、安定感があり、完成度が高いように思う。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: フィクション
感想投稿日 : 2020年7月31日
読了日 : 2020年7月31日
本棚登録日 : 2020年7月31日

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