亀屋伊織の仕事―相変わりませずの菓子

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  • 淡交社 (2011年2月11日発売)
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京都で400年近く、薄茶のための干菓子を作り続けている亀屋伊織。その若主人が語る、伊織の菓子の歳時記。 一見すると何屋なのかもわからないその店の商うものは、茶道で薄茶に添えられる干菓子、いわば脇役の菓子である。

静かな佇まいの店は、出しゃばらず主張しすぎない、茶席で生きる菓子を、「相変わりませず」の精神で代々受け継いで、諸流派の茶人に納めている。
その十八代目を継ぐであろう若主人が、季節の菓子の写真とともに、菓子同様、淡々と物静かに、伊織の歴史やその菓子がどのように作られているのかを紹介している。

干菓子は、四季に渡ってほぼ同様に材料を使いつつ、色や造形で季節をあざやかに想起させる、不思議な菓子だ。

千代結、荒磯、滝、兎、雀、光琳松。数々の菓子の写真が美しい。

「ざんぐり」と「作りすぎない」伊織の菓子。伝統の中で洗練されたものが残り、新しさを嫌うわけではないが、先鋭的でありすぎない、とでも言えばよいだろうか。
干菓子はあくまでも添えられるもの。全体の調和を乱さないものであるべし、という立ち位置が興味深い。
おみやげ菓子とは用途が違うので、人にあげて喜ばれる、というものではない。どの菓子をどういった取り合わせで使うかは、どういった茶席で使うか次第で、客の考えにゆだねられる。
淡々と続いてきた老舗は、これからも綿々と伝統を引き継いでいくのだろう。


*源氏香の意匠の菓子があり、通常は法事で使われるものであるそうだ。あるとき「源氏物語」の趣向で、と考えた客に、この源氏香の菓子ではなく、御所車のせんべいと紫の蝶を勧めたという挿話はおもしろかった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 茶道
感想投稿日 : 2011年10月16日
読了日 : 2011年10月16日
本棚登録日 : 2011年2月16日

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