水神(上) (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (2012年5月28日発売)
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本棚登録 : 430
感想 : 49

上下巻読了。骨太ないい話だった。この作家の奥付の経歴を見ると一体何人分の経歴かと驚くのだが、書く小説の幅も大変広い作家だ。この小説を書くために一体どれくらいの民俗資料を読んだんだろうか。
筑後川を含めた三つの川に挟まれているにも関わらず土地が高いがために水が田畑にゆき届かず、困窮した一生を終える江南原の百姓たち。代々伝わる困窮生活は自分たちの一代で終わりにしようと、五人の庄屋が失敗したら死をもって償う、という誓いと共に筑後川に大石堰と水路を作り江南原全体に水を運ぶという一大計画を練る。
失敗したら死をもって償う時代、それを前時代的と笑うのはたやすいけど当時の価値観を無視して今の尺度で歴史を語るのは愚かしい。それに時代で言えば300年も前の話なのに不思議なことに現代に通じることばかり。
苦しいとはいえ、現状に甘んじてさえいれば誰も死ぬことはなかったと後悔する発案者。大きなことを成し遂げるためには何かを失わなければいけない。ノーペインノーゲイン。命の危険なくどんな挑戦もできる我々現代人はなんと幸せなのだろう。
百姓たちを始め方言の会話も楽しめた。五木寛之の「青春の門」と同じやつですね。作中「未来を語るのに、希望を持って語るか絶望をもって語るかは全然違う」という台詞がよかった。今の日本に対して不安材料を挙げれば少子高齢化、破綻寸前の財政に天災リスク、高い失業率とキリはないが、そういったマイナス要因だけ見て生きることはしたくない、諦めて日々を食いつぶすように生きるより希望に目を輝かせて生きたい、そんな気持ちにさせられる。

あとは最近よくあるのだが帯でネタバレするのはやめて頂きたい。下巻を見た途端気が抜けた。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説(2004〜)
感想投稿日 : 2013年4月23日
読了日 : 2013年4月23日
本棚登録日 : 2013年4月23日

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