凍りのくじら (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社 (2008年11月14日発売)
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本棚登録 : 26331
感想 : 2285
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「スロウハイツの神様」(下)に、この「凍りのくじら」の主人公が成長した姿で出てくる、と何かで読んだので、スロウハイツの下巻に行く前に読まねば、と図書館で予約。

辻村深月さんのドラえもん愛が小説になったような感じだった。


主人公の理帆子に藤子・F・不二雄先生とドラえもんの素晴らしさを教えてくれた写真家の父。その大好きな父が、末期癌を患い、小6の時に失踪した。
今度は母が癌で倒れ、高2の今、別れの時が近づいている。

心の拠り所である藤子・F・不二雄先生は、SFをサイエンスフィクションではなく、「少しふしぎ」と置き換えた。
それに倣い、理帆子も自分や友人の個性を「少しナントカ」と例えている。
自分の個性は、「少し不在」
小さい頃から呼吸をするように読書をしてきた理帆子は、人生の擬似体験が豊富で、どうしても恋人や友人達を上から見てしまう。だから、皆と一緒にいてもどこか自分は冷めている。全てに現実味がない。
そんな日々を送る理帆子の前に、写真のモデルになって欲しいという高3の別所あきらが現れた…。

ドラえもんの未来の道具が、章のタイトルになっているが、話のスジにうまく載っているのが流石。
頭が良く見た目にも恵まれていて、それを充分に理解した上でソツなく全てをこなす理帆子だが、この年で両親を癌で亡くすという大きな喪失も抱えていて、非常に危うい部分もある。

終わりに近づくに従い、もしかして「少しファンタジー」?などと思ったりして。
別れた彼が破綻していく姿が痛々しく、ちょっと残酷な気がする…しかし、理帆子が両親の深い愛に包まれていることが、最後に本人にきちんと伝わり、そこは良かったな。2020.8.11

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 913日本の小説
感想投稿日 : 2020年8月14日
読了日 : 2020年8月11日
本棚登録日 : 2020年8月11日

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