ピアニシモ (集英社文庫)

著者 :
  • 集英社 (1992年5月20日発売)
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転校を繰り返すたび、なじめず、いじめを受けて自分の殻の中に閉じこもっていた透。
ヒカルという存在を自ら作り出し・・・誰にも本心を見せなかった。
いじめられながらも矛盾や怒りや憎悪や拒否をすべて封じ込め、ひたすら覆い隠してきたはりぼての青春を主人公は過ごしてきた。

ある時、テレクラで「地獄にいます。引っ張り上げてくれる人、1000トリプルに来てください」というメッセージを聞き、サキという少女と出会う。
主人公は彼女が孤独に打ちひしがれている様子を知り、親近感を覚え・・・恋心を抱くようになる。
会う約束をするが、彼女は約束の場所に来なかった。

主人公は彼女に連絡して、言う。
「どうしてたの?どうして来なかったの?ずっと待っていたのに・・・。具合でも悪いの?僕はいじめに耐え切れない。もうこれ以上一人で抱えきれなくなって辛いんだ。」
彼女はついに口を開いた。
「馬鹿じゃないの?全部演技よ。芝居よ。どうして分からないの?ごっこなんだよ、ごっご。皆、ゲーム。他にもあなたみたいに電話でやりとりしている人はたくさんいるわ。どの人とも違う自分を作って演出しているの。会ってどうするの!?会えるわけないじゃない。」

主人公はついに訳もなくかすかな希望の、期待の、楽しみの糸をぷつんと切られてしまったようになり、ひたすら逆上して心が抑えられなくなってしまった。

暴れ、人を、犬を、物を破壊し傷つける透。

チェルノブイリの原子炉のようにセメントや石や砂で無理矢理密閉してしまっていた自分の感情がついに核反応を起こし、赤く赤く大爆発を起こしてしまった。

いじめられていた透の側に片時も離れずくっついていたヒカルは「昔からウジウジするとこは相変わらず変わんねぇな。いい加減成長しろよなっ。お守りも大変だぜ・・・ったく。」と目を動かさず、眉を三角に吊り上げて笑った。

主人公はそこで自分がヒカルに甘えていたことに気づく。
今の僕がこうなってしまったのは・・・こうでしかなにのはヒカルの存在のせいなんだ・・・と。
いつまでたってもいじめられ、裏切られ、殻をかぶって自分が成長できないのはすべてヒカルのせいなんだ・・・と。
ヒカルの顔色をうかがって生きてきたからだのだ・・・と。

そして、ヒカルを消して、自分自身から遊離することを決心する。

ヒカルは一人っ子で転校が多く、孤独だった僕が作り出したもう一人の僕だったのだ。

人間はあらゆるものから離れることによって、自立し成長していく動物である。
自分自身に甘えていた主人公は自立と成長のために新しく生まれ変わろうとする姿を描いた作品。

ほのかな恋心がちらつく青春ストーリーである。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2010年1月31日
読了日 : 2009年12月15日
本棚登録日 : 2009年12月15日

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