ビジネスエリートの新論語 (文春新書)

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  • 文藝春秋 (2016年12月9日発売)
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感想 : 60
5

昭和30年に書かれたとは思えないほど、現代に通ずるものがあった。
それほどに日本社会は進化していないのか、はたまた"サラリーマン社会"の根本は変わらないのか…

さすが司馬遼太郎と言わざるを得ない流れるような文脈で読みやすく、
かつ様々な先人たちの言葉もリソースとして交えられ、スッと入り込む一冊だった。

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■インドの法句経

古代インドの法救という坊さんが釈迦のコトバを編集したもの
⇒当時のインドの社会制度はそれこそ二十世紀後半の日本とは比べ物にならないほどひどい
 (社会制度のカケラもない)

貴族の他は乞食同然、というような世の中だったので死の世界を欣求する仏教が生まれた


■人生観の年輪

たいていの会社の人事課長は「新入社員の情熱は永くて5年」と見ている
それどころか「入社早々なんの情熱も用意していない者が多い」という人も

「戦前なら入社2年ほどは仕事を覚えるのに夢中で過ごすものだが、
 近頃の若い者はただ8時間という労働時間と初任給の対価を見合わせただけの労働量しか提供しない」


■恒産という特権

恒心つまり平常心とは、"熱くも冷たくもない水に浸かっている精神"
ぬるま湯の中では体のどこからも抵抗というものが生まれてこない
ノビてダラりとしたウドンのような人生を送るのみ


■崩れぬ笑い

「笑いとは、全人類の謎を解く合鍵である」 ――カーライル

とある会社で中年の事務経験者を募集した。
200名の中から3名の採用をしたが、「笑顔」が採用の尺度だった

人事課長の話では、
「魅力ある笑顔というのは一朝にして仕上がるものではなく、
その人間のすべてを表現するものとして、人格内容のあらゆる集積が裏打ちされている」


「40歳を過ぎた人間は、自分の顔に責任をもたねばならぬ」 ――リンカーン
「神は汝に一つの顔を与えた、ところが汝はそれを別の顔に造り直した」 ――シェークスピア

"別の顔"が仕立てあがる時期をリンカーンは40歳前後と見た
青少年時代の顔は生まれ出た素材そのままの顔であり、持ち主の責任はどこにもない
老いるに従い、品性その他すべて精神内容が、その容貌にノミを振るいだす

例えば強盗はズバリ強盗の顔をしている
教養・経験・修養・性格……すべての集積が沈殿していく


■議論好きは悪徳

「人生はいつまでも学校の討論会ではない」 ――D・カーネギー

本人は知的体操でもやっているつもりかもしれないが、
勝ったところで相手に劣敗感を与え、好意を失うのがせいぜいの収穫

カーネギーいわく営業部員の論客ほどヤクザなものはいない

"B社の製品とは素材からして違いますよ。便利さも格上。しかも安い。買わないなんてオカシイじゃないですか"
議論のつもりだから傘に掛かって論破していくが、その時の相手の心理からすると
何らかの理由があってその商品を使っていたわけだし、「そんな事言ったってB社は~~」と弁護をしたくなる気分になる。

老練な営業部員は決して競争品をけなさない。
"あれは立派な商品で、お使いになって大抵間違いはありません"
こうくると客は急に無言になる。一瞬にして議論の相手が居なくなったからである
相手の抵抗意識がおさまったところを見澄まして、静かに自社の商品の特徴・評判を議論でなく事実として述べる
議論よりも心理に通ずる者が勝つとカーネギーは語っている


■階級制早老

「先輩からは知恵を、後輩からは感覚を汲むが良い」 ――西 諺

老けるのも時には便利な事があるかもしれないが、営業や企画関係の職種では
感覚まで老けてしまってはハシにも棒にもかからない。

ポスター1つ注文するのにも感覚が古ぼけていてはどうにもならないし、
購買心理の隠微な動きを知るにも老化は営業課員の的に違いない

"キミ、そんなことじゃダメだよ。私の若いころは~~"なんて説教癖を持ち始めたら救いようがない
知恵を振り回すようになれば人間の成長はそこでお仕舞い。

「人生の真の喜びは、目下の者と共に住むことである」 ――サッカレー


■大成する、とは

大成とは、この世界の中で大成する事であって、
この世界から抜け出て重役になったところでそれはサラリーマンとしての栄達だが…
昔の剣術使いが技術を磨くことだけに専念して、大名になろうとかを考えなかったのと同じこと

新聞記者で言えば、部長や局長になろうという気持ちが兆した瞬間から、
その人物は新聞記者を廃業していると見て良い
純粋に言えば、鉛筆と現場と離れた形では新聞記者という職業は考えられないものだ

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2017年12月28日
読了日 : 2017年12月28日
本棚登録日 : 2017年12月28日

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