響きあう脳と身体 (新潮文庫)

  • 新潮社 (2010年10月28日発売)
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脳科学者の茂木氏と古武術研究家の甲野氏の対談である。養老氏が「バカの壁」の取扱説明書とのまとめをしている。内容は「興味」や「身体」の力を復権しようということで、ロボット製作の問題、引きこもり問題や、教育問題や、文明の問題に及ぶ。科学は限定的な知識しかもたらさない。正直によくわからないことを告白せよとする。これはよくある観点だ。筋トレは、部分的な筋力を偏って鍛えることで、かえって全身のネットワークを破壊しているなどの観点はなかなか面白い。ただ、「真に受けてしまう人」が多いとか、身体観が矮小化しているということに関して、どうしてそうなのかという社会的考察が(したくないのかもしれないが)弱い。両者の議論をみていると、現代はおかしい人が多いという見方が共通しているが、それはそれで理由があるんだろう。だが、あえていえば、一般人は、武道の達人になろうとは思わないし、腦のクオリアの疑問に転んだりはしないのである。正直にいって、生活に支障はない。つまり、そういうことをやっておれるヒマ人の放談といえなくもない。マニュアル化をきらう両者の対談は面白いもので、刺激をうける内容である。だが、彼らに敬意を表して、頭の片隅に残しておきつつ、アホらしいと思うことも大事である。身体観の矮小化は中国の古典を学ぶことが少なくなっているのが関係しているのだろう。武道の極意が、荘子にいう輪人(車輪職人)の技のようなもので、たとえ親子であっても伝達不能であることは、古典の素用があれば、見やすい道理だ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 情報学
感想投稿日 : 2010年11月11日
読了日 : 2010年11月11日
本棚登録日 : 2010年11月11日

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