車谷長吉の人生相談 人生の救い (朝日文庫)

著者 :
  • 朝日新聞出版 (2012年12月7日発売)
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本棚登録 : 411
感想 : 49
5

文庫の帯に加藤シゲアキが推薦文を寄せていたので読んでみた。
著者は2015年に亡くなった直木賞作家の車谷長吉。
朝日新聞土曜版に連載されていたもので、読者からの悩みに車谷氏が答えるというシンプルな人生相談形式なのだが、この回答のぶっ飛び具合がなかなか凄い。
一例を挙げると、定期的に教え子の女子生徒に恋心を抱いてしまうという妻子持ちの高校教師に対して
「生が破綻した時に、はじめて人生が始まるのです。」
「好きになった女生徒と出来てしまえば、それでよいのです。」
「阿呆になるのが一番よいのです。あなたは小利口な人です。」
と唆したと思えば、人の不幸を望んでしまう自身の心を入れ替えたいという主婦に対して
「まず思ったのは、この人は一生救われないな、ということでした。」
「あなたは人生の不幸を乗り越える力がありません。愚痴死が待っているだけです。」
と吐き捨て、妻が新興宗教にハマってしまった会社員に対しても
「夫であるあなたが説得することは出来ないでしょう。」
と身も蓋も無いことを書くという、真剣に悩んで相談を寄せた者からしてみたら唖然とするであろう回答ばかりなんだけど、第三者として読んでいる分には実に面白くて笑えてしまうのである。
特に「美禰子」のくだりは最高。まさか夏目漱石先生もダッチワイフに名前を拝借されるとは思っていなかったでしょうに。
初版から10年以上経っているけど、時代の経過を感じさせない魅力が本書にはあると思う。それは恐らく、世間一般でいうところの「道徳」とは対極にある、人間としての真理を突いた部分があるからではなかろうか。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説以外
感想投稿日 : 2023年8月6日
読了日 : 2023年8月6日
本棚登録日 : 2023年8月6日

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