運命ではなく

  • 国書刊行会 (2003年7月1日発売)
3.76
  • (8)
  • (11)
  • (14)
  • (1)
  • (0)
本棚登録 : 133
感想 : 14

収容所から生還し、2002年にノーベル文学賞を受賞したケルテースはその著の中で、姉との会話の想い出を語っている。姉も、そもそもユダヤ人とは何なのかがよくわかんらないから、それを考えていたのだと打ち明けた。宗教のせいに決まっているという人もいたが、そんなの誰でも知っているわけよ、と言った。でも姉は、宗教ではなく、「ユダヤ人であるということはどういうことか」に関心があるのだ。どうして憎まれるのか、その理由を知らなくちゃいけない、と話した。そして彼女は最初は何が何だかわけがわからず、「ただユダヤ人であるだけで」軽蔑されるのがとっても悲しかったと語った。そしてその時初めて、何かが彼女を人々から分け隔てていて、自分がその人達とは別の場所に属しているのだと感じた。それ以来、彼女はいろいろ考えはじめ、本を読んだり、人と話したりして、その根拠を見つけようとした。そしてようやく、どうして憎まれるのかがわかった。すなわち、彼女によると、「私たちユダヤ人は、他の人たちと異なる存在」であり、本質的に違うがあるからこそ人々はユダヤ人を憎むのだ、というのだ。その「違いを意識しながら」生きるのは特別なことで、ある時には一種の誇りを、別の時には何か恥ずかしいようなものを感じるとも言った。他の人々と違うということを、僕たちがどう思っているのか知りたがり、僕たちがそれを誇りと思うのか、それともどちらかと言うと、恥ずかしく思っているのか訊ねるのだった。僕もそれまでそんな感情を感じたことがなかった。それにそんなふうに、人と違うなんて自分では決められない。結局、僕の知る限り、だからこそ黄色い星は役に立つのだ。そう彼女に行っても見た。でも彼女は意地をはって、違いは「自分自身の中にある」と言うのだった。でも僕に言わせれば、黄色い星をつけていることの方が本質的なことなのだ。それについて僕たちは長い間意見を戦わせたけれど、自分でもどうしてそんなにむきになったのかはわからない。だって本音を言うと、そんなことはたいして重要なことじゃないと思っていたのだろうから。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ユダヤ
感想投稿日 : 2016年8月28日
読了日 : 2016年8月28日
本棚登録日 : 2016年8月28日

みんなの感想をみる

ツイートする