アルゴリズムが世界を支配する (角川EPUB選書)

  • KADOKAWA (2013年10月10日発売)
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本書を手に取るような人にとっては、「アルゴリズム」というとまずはアルゴリズム取引が頭に浮かぶのかもしれないが、扱っている範囲は金融取引よりも広く、一般的である。

本書の冒頭を飾る章での、市場取引が徐々に「アルゴリズム」に引き取られていく様子は、トーマス・ピーターフィーという一人の特徴のある人物に焦点を当て、しっかりとした取材に基づいていて面白い。この辺りの米国のノンフィクションの伝統とも言える構成は、読み手にとってはとても好ましい。取材などにお金と時間がかかることはわかるが、日本でもこういった手法でどんどんとノンフィクションが書かれてほしいと思うところである。とにかくここでは詳しく書かないが、取材から得られた小ネタがたくさん詰まっていて面白い。現在、反主流派としてピータフィーが端緒を付けたアルゴリズム取引は太い流れとなり、現在では全米の60%を超えるものがアルゴリズムによってなされた取引になっているという。

金融取引だけではなく、本書ではアルゴリズムによる作曲、アルゴリズムによる人物評価、コールセンター業務効率化などが取り上げられる。

アルゴリズムによる作曲について、デイヴィッド・コープという人物に焦点を当てた語りは素晴らしい。
アルゴリズムによって作曲された曲に対する業界の拒否反応は、ブラインドコンテストでアルゴリズムによる作曲が優った結果が出た後でも根強いものがあったのは印象的である。

アルゴリズムによる人物評価、コールセンター業務におけるアルゴリズムによるマッチングや予測に関しても、それぞれテリー・マグワイアとテイヴィ・ケーラー、ケリー・コンウェイとヘッジス・ケイパーズの物語として描かれていて読み手の興味を誘う。

この本を読んで改めて、アルゴリズムが届く範囲は今の自分たちが想像するよりも広いのかもしれない。それは、シンギュラリティという言葉で想像されるような人工知能型ロボットではなく、それよりも見えない形で裏で動く実効的なアルゴリズムだ。

ベストセラーとなった『ホモ・デウス』が、結局生物とは「アルゴリズム」であり、生物である人間もまたアルゴリズムであると指摘する。そしてアルゴリズムに関していえば、いずれAIの方がうまく扱うことができるようになるのだから、将来はアルゴリズムに多くを委ねる方が優位に立つことになり、それが引いてはアルゴリズムが支配する世界になるといった未来像を描いていて話題だ。同書の書評などを読むと、どうやらアルゴリズムによる支配を否定的に取る人が多いようだが、『ホモ・デウス』の著者であるユヴァル・ノア・ハラリは必ずしもそのことに否定的ではない。少なくともニュートラルだ。いずれにせよ、すでに人間自身が不完全なりにもアルゴリズムによって動いているのである、というものだ。

そして本書の著者も、そのことに気が付いている。
「人間を模倣し、徐々に人間に取って代わっていくようなアルゴリズムを作り出せる能力が、これからの百年を支配するためのスキルだ」

本書は次の言葉で締めくくられる。

「プログラムを書ける人間にとって、未来の可能性は無限にある。複雑なアルゴリズムを理解し組み立てることができればなお良い - 世界を征服できる可能性がある。ただし、ボットが先にやっていなければの話だが」

問題は、日本の理系の学生やこれから理系の学部を選ぼうとする高校生がこう考えているかどうか、だろう。

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『ホモ・デウス(上) テクノロジーとサピエンスの未来』のレビュー
https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4309227368

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 技術(通信以外)
感想投稿日 : 2018年12月24日
読了日 : 2018年11月3日
本棚登録日 : 2018年11月4日

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