マッハの恐怖 (新潮文庫 や 8-5)

著者 :
  • 新潮社 (1986年5月1日発売)
4.05
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本棚登録 : 236
感想 : 19
5

昭和41年に起こった悲劇「全日空羽田沖墜落事故」および羽田空港における「カナダ太平洋航空機墜落事故」、その翌日富士山で起きた「英国海外航空機空中分解事故」を取材し、記者という立場から真実のあり方や事故調査の背景などを描き出したノンフィクション作品。
既にハードカバー・文庫版とも絶版となってしまっている本著、ずーっと読みたくてうーうー言ってたら、なんと図書館にあることが分かった。図書館って、本当に素晴らしい!

柳田氏も当時はNHK社会部の記者であり、企業の一員として他のたくさんの事件を抱える中で、個人の信念からこの事故調査を最後まで見届け、本著として世に送り出したことは非常に大きな意味のあることだったと思う。今は誰もがインターネットで様々な情報を入手したり、関係者を探し出してコンタクトを取ったりできるけれど、その当時は一般の人が表ざたにならない情報を掴むなんて本当に容易ならぬことだったはず。

事故の発生から調査、そして報告書をまとめて結論づけるところまでの流れを、関連する国内外の事例を絡めながら書かれていて、私は飛行機事情に明るくないけれど時間をかければ大枠を掴めるよう分かりやすく書かれていて、読んでいても結構ショックなことも多く、思ったより時間がかかりました。

個人的に、科学的な証明を目指して現物に立ち返り、最後まで墜落のの真実を追い求め続けた、最後の報告書にお名前の出なかったお二人…航空局航務課のエンジニアさんと、明治大学教授(当時)の山名正夫氏には本当に頭が下がります。科学的な立証を無視し、国際的・政治的・社会的な体裁を整えざるを得なかった当時の日本の立場というものも、理解できないわけではない…けれど、科学的に原因を究明し、再発防止に生かすことができたのではないか、という思いが拭いきれず、最後本当にいたたまれない気持ちになった。

記者の志向で結論ありきに取材を仕向けていくような作品ではなく、取材に基づいて真実を探り出そうとする正当なドキュメンタリー。40年以上も昔に書かれた本ですが、是非今の人にも読んでほしいと思える作品でした。

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第3回(1972年) 大宅壮一ノンフィクション賞受賞。

昭和41年春、日本の空は異常だった。2月4日に全日空ボーイング727型機が羽田沖に墜落し、3月4日にはカナダ太平洋航空ダグラスDC8型機が羽田空港で着陸に失敗、炎上した。翌5日にはBOACボーイング707型機が富士山麓に墜落し、わずか1カ月の間に300人を超える人命が失われた…。巨大技術文明の中での連続ジェット機事故の原因を追究した、柳田ノンフィクションの原点。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 本(その他)
感想投稿日 : 2015年5月5日
読了日 : 2015年5月5日
本棚登録日 : 2015年5月5日

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