闇の中の男

  • 新潮社 (2014年5月30日発売)
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感想 : 54
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語り手の老人ブリルを中心にその家族構成が少し複雑なので、多少わかりずらい。更に、ブリルは自分自身にブリックが主人公の物語を語っており、それが全体に含まれている。

ブリックは朝目覚めるとパラレルワールドのような場所にいる。それはFalloutのゲームが始まる前の、核攻撃以前の内戦状態のような世界だ。ブリックは、その悲惨な世界や運命をもたらした当の本人、ブリルを殺す役目を負わされるわけだが、結局果たせずに殺されてしまうのは、まあ妥当なんだろうが、残念と言えば残念。

オースターにはこういう、物語を語ることそれ自体に対して言及する姿勢がある。読者は、ブリックはブリルを殺すだろうと期待する。ところが、あっけなくブリックは殺されて、おそらく本来語るべきブリルの話に戻っていく(これは献辞からみて妥当だろう)。

そして、そもそもブリックの物語は、おそらく死んだタイタスに関係し、それは最近のテロリストとの戦争にも絡んでいるのだと最終的にわかる。もしかしたら、タイタスはオースターの「ガラスの街」で描いたクインに類していて、文学への希望も愛も(カーチャとは戦争に行く前に別れていたという)失って、そこにもしテロリストとの戦争があったらこうなるかもしれないという投影なのかもしれない。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 海外文学(翻訳)
感想投稿日 : 2017年10月7日
読了日 : 2017年10月7日
本棚登録日 : 2017年10月7日

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