旧石器・縄文・弥生・古墳時代 列島創世記 (全集 日本の歴史 1)

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  • 小学館 (2007年11月9日発売)
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著者は<はじめに>で先ずこう語っている。
「この巻で描きだすのは、ヒトの最古のたしかな足跡が確認される旧石器時代から、巨大古墳が築かれる五世紀までを中心とした,およそ四万年間の日本列島の人びとと社会の歩みだ」
 縄文時代には,物質資料のみで文字資料はなく、弥生時代以降は両者があるが、「四万年を一貫した方法論で描くには,文字記録によらず、物質資料のみを対象とする必要がある」

この著述にあたって著者は三つの指針を掲げる。
第一は、歴史科学の再生。
かつては史的唯物論が歴史の解釈と展望について最大の試みだったが,二十世紀後半以降、人間自体の科学的探求である、認知科学−ヒユーマン・サイエンス−が長足の進歩を遂げた。
この著作は,認知考古学の成果をもとに、その方法論を軸として新しい人類史と列島史の叙述をめざす、とされる。
(この方法論については、史的唯物論を止揚するかの記述だか,よく判らないものがある・・)

第二は,地球環境の変動が歴史を動かした力を,もっと積極評価することだ。
「生産力の発展」という大出力エンジンで歴史街道を驀進して来たということではなく,環境との対立と妥協を繰返しながらこつこつと歩んで来た旅人としての、人間の軌跡を辿ること,とされる。
(「大出力エンジン」と称される史的唯物論的手法に代わる環境論かも知れないが,本来対立するものではないように感じられる。史的唯物論をきわめて単純化することで、認知科学の効果を説こうとする著者の方法はやや疑問)

第三,「日本という枠組み」を空間的にも、歴史的にも固定したものとして捉えないこと。そういう枠組み自体が歴史的な産物であり、せせこましい愛国主義ではなく、国際的にも客観的な知性が感じられるものにしたい、とする。
(これはよく判る)

 さて本書第一章は<アフリカからの旅路>として、約十五万年前の新人の出現から、五万年前あたりからの「ほかの動物にはみられないヒト固有の複雑な認知と身体でもって社会を織りなしはじめ」た、という時代から始まる。
以下内容目次は次のとおり。
○ 第一章 森と草原の狩人  旧石器時代
○ 第二章 海と森の一万年  縄文時代前半
○ 第三章 西へ東へ     縄文時代後半
○ 第四章 崇める人,戦う人  弥生時代前半
○ 第五章 海を越えた交流  弥生時代後半
○ 第六章 石と土の造形   古墳時代

各時代の状況については、最新の考古学的発見分析により、現在日本列島とよばれる地域の具体的事例による叙述が詳細にされている。
縄文と弥生の地域的移り変わり,青銅器と鉄器の出現の模様,北九州から北海道にかけての旧遺跡分布など、昔々に中学で習った単純なそれとはかなりに違う面白さ。このあたりは、既出の日本史通史の記述を新しくしたものだろう。

旧石器時代を日本<歴史>に含むかどうかは別として,戦前の神話授業に占められていたこの時期を,科学的に解明する作業は非常に大切なことだ。この作業の意味は,昨今の「靖国史観」派の妄動を見てもゆるがせに出来ない。

年表4ページを含む,約360ベージで、四万年をまとめあげた、この著作は読者に新しい発見を示し議論を促している。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 歴史
感想投稿日 : 2010年5月23日
読了日 : 2010年5月23日
本棚登録日 : 2010年5月23日

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