人質の朗読会

著者 :
  • 中央公論新社 (2011年2月1日発売)
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テロによって引き起こされた、凄惨で哀しい結末とは裏腹に、事件後ラジオから流れたのは静かな静かな声・声・声。
なんということはない人生を歩んできたはずの8人の日本人。
彼らが地球の裏側で語るのは、密かに胸に秘められていた小さく輝く思い出たち。
滔々と語られるその思い出は、彼らがいなくなった後も残り続ける。
過去は、失われない。

「杖」「やまびこビスケット」「B談話室」「冬眠中のヤマネ」「コンソメスープ名人」「槍投げの青年」「死んだおばあさん」「花束」「ハキリアリ」。

テロの人質となった8人と、それを救出するために盗聴していた地元民の語る話は、染み透るように心に流れ込んできました。
届くはずのなかった彼らの記憶・記録が、ふいに手元に届いた時。
遺族はどんな思いをしたのでしょう・・・。
図らずも、3.11を思い起こさずにはいられない作品でした。
最近の小川作品には外れがないですね。
ちなみに今回は装丁も素敵でした。
表紙のやわらかなミルク色の小鹿は土屋仁応氏の作品(今村夏子さんの『こちらあみ子』の表紙の麒麟もこの方の作品だったような・・・)。
この小鹿、檜とラブラドライトでできているんですって。
深い藍の眼差しが、とても神秘的でした。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: あ行
感想投稿日 : 2011年6月18日
読了日 : 2011年6月18日
本棚登録日 : 2011年6月18日

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