かつて少年少女たちは夏が来るたび、山荘でキャンプをして過ごした。親たちは酒を飲んだり羽目を外してくつろしでいるようだったし、子どもたちは熱い友情を育んだ。
子どもだった彼らは大人になり、それぞれの人生を歩んでいる。就職していたり、結婚していたり、フリーターになっていたり、歌手やイラストレーターになっている人もいる。
彼らは父親の精子ではなく、他人の精子から生まれた子どもたちで、あのキャンプは親たちが不安を話し合うための場所だった。
精子バンクに参加したドナーたち、生物学上の父親、裁判沙汰になっていたクリニックの医師。
大人になった彼らは情報を追うが、到底見つかりそうにない。それぞれがそれぞれの立場で考える。
かつての親たちと同じくらいの年代になっている自分たちに気づく。
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父からよくない扱いを受け、中学一年生で親が別居して以来、ほぼ父とは接点のない人生を歩んできた自分のことをあれこれ考えながら読んだ。
生物学上の父の嫌な部分、たとえばイライラしがちなところなんかを自分は受け継いでしまっていると思う。でも、それが遺伝なのか、あるいは幼い頃にイラついている父を見て刷り込まれてしまったのか、単純に自分の人格が未熟なのか、よくわからない。
自分の年齢があの頃の父に近づいてきている。イライラしているときの自分は本当に情けなくて惨めだ。当時の父もこんな気分だったんだろうか。同じ過ちは犯したくないな。
小説とぜんぜん関係ないことを書いてしまった。
1980年代と2020年代の感覚が異なるように、これから先もどんどん倫理観は変化していくはずだ。男性だって妊娠できるようになっていくかもしれないし、人間の身体以外での妊娠出産が可能になっているかもしれない。
生まれてくる子どもの遺伝子をいじることもやがて行われるだろう。
その時々によってタブーとされる行為は変わるし、倫理観も変わる。けれど、親たちの不安はどの時代もそんなに変わらないんじゃないかと思う。
- 感想投稿日 : 2022年5月7日
- 読了日 : 2022年5月6日
- 本棚登録日 : 2022年5月6日
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