ディア・ライフ (Shinchosha CREST BOOKS)

  • 新潮社 (2013年12月10日発売)
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本棚登録 : 382
感想 : 28
4

去年の終わり、自分へのクリスマスプレゼントを何にしようか考えたすえ、
「そうだ、どれでも好きな海外文学の単行本を一冊、買っていいことにしよう!」
と思い立ち、本屋さんへ。
本当は、いちいち決心しないでも買いたいところですが、私にとっては、単行本、しかも、海外文学ともなれば、ちょっとした贅沢品なのであります。
あれこれ迷ってぐるぐると売り場を歩き回り、最終的にクリスマスリースのあしらわれた美しい表紙にひと目惚れして、こちらの一冊に決定。

本書は、1931年カナダ生まれの作家、アリス・マンローによる短編小説集。
マンローは2013年にノーベル文学賞、2009年に国際ブッカー賞を受賞しています。
ひととおり読み終わった結論としては、本書は、最後に収録されている「訳者のあとがき」を読んでから、読むのがおすすめです。
特に、私みたいに、そんなに海外文学はたくさん読んだことがないんだけど興味がある、とか、マンローという作家さんの作品を読むのが初めて、という方は。

というのも、冒頭の「日本に届く」をはじめとする4編目くらいまでをまず読んで感じたのは、「何だこれは!?」という戸惑いで。
基本的に、描かれているのは夏休みを夫と別に過ごすことになった母娘、児童のためのサナトリウムで教職につくことになった女性教師、小さな街で夜勤巡査として働く男性など、ごく平凡な人々で、文章もとりたてて難しい言葉が並ぶわけではありません。
いっぽう、はっきり言葉にされるわけではありませんが、読み進めていくとそこに、わかりあえない夫婦関係、突然の結婚の破談、配偶者の重い病気と死、家庭内の性的虐待など、非常に厳しい現実があることが浮かび上がってきます。
そして、夫と妻、母と子といったごく身近な人間関係も、決して密なものとしては描かれず、分かり合えなさと孤独を抱えており。
それが作品中で解決されるわけでもなく、彼らは一見淡々と日々を過ごし、話が終わる。
時々、映画や小説で「そして10年の歳月が流れた」という言葉とともに、作中の時間が経過することがありますよね。
本書ではそういった言葉は使わずに、印象として1ページくらいで40年ほど人生が一気に展開する場面があり、ぼーっと読んでいると「え、なになに!? 今のどういうこと??」と慌てて読み返すことになります。

「訳者のあとがき」では、そうしたマンロー作品の特徴がとてもわかりやすく説明されているので、読むことでよりそれぞれの話の面白みが味わえるようになります。
戸惑いに耐えて(?)読み進んでいくと、いつしか短い数十ページの中で、凝縮された人生が静かに、時にダイナミックに展開する味わいが癖になってくるというか。
そして、最初は突き放されたように感じた、それぞれの登場人物の生き様も、やがて、ままならない人生をただ生きるしかない人間を、そのまま受け止めようとする作者の愛情なのかな、と思えてきます。
個人的に特に好きだったのは、「列車」という一編。
ある帰還兵が、目的地に到着する間際の列車から飛びおりる場面からはじまり、めまぐるしく展開する日々の中で、徐々に過去の人生が明らかになる……という話なのですが、短編の中に、長編の人生が浮かび上がって、読書の醍醐味が味わえます。

例えていえば、カカオが濃厚でほろ苦いくらいで、ドライフルーツがぎっしり入っている、ずっしり重いチョコレートパウンドケーキのような本書。
できれば素敵な紅茶と一緒に、ほろ苦さと酸っぱさをかみしめて読みたい一冊だと思います。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2019年3月2日
読了日 : 2019年2月26日
本棚登録日 : 2019年2月26日

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