あの川のほとりで 下

  • 新潮社 (2011年12月21日発売)
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本棚登録 : 219
感想 : 26
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アーヴィングの小説は、とりあえず長い。読み始めると他の作品が手に取れず、困る。
「少年が熊と間違えて殴り殺したのは父親の愛人だった!」上巻の帯に書かれた煽り言葉に辿り着くまでで、まるまる1章129ページ。
ここから始まる逃避行の描き方が独特。
10年や20年時間をワープして、その地点に至るまでの出来事を回想し、また次の時代へ跳ぶのが繰り返されていく。
逃避行と避け難い悲劇の予感に対するスリルとテンションを保ちながらも、感傷とユーモアたっぷりの膨大なエピソードで“事故の起きがちな世の中”で失ったものを悼むという巧みな構成は、ラストに過去が現在に追いついてフィナーレを迎える。そのとき長じて作家となった主人公ダニエルが回想するのは、少年だったツイスティッド・リヴァー最期の夜-ピタリと原題の通り-なんて見事なエンディングだろう。

大切な人をふと懐かしく想い出すときに浮かぶのは、ちょっとしたつまらないエピソードやくだらないジョークだったりしないだろうか。
アーヴィングが奇想天外な物語の中で繰り返し描くのは、人生は突然の悲劇に溢れていても、その幕間には素敵な想い出の数々が詰まっているということだ。

「ホテル・ニューハンプシャー」「オーウェンのために祈りを」「熊を放つ」(極私的なベスト3なので悪しからず)に及ばずとも、読み終わったあとに幸福な気持ちになれる素敵な物語だった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2023年6月24日
読了日 : 2023年6月24日
本棚登録日 : 2023年6月24日

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