みかづき

著者 :
  • 集英社 (2016年9月5日発売)
4.17
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本棚登録 : 4593
感想 : 601
5

いやぁ~、面白かった!
教育という堅苦しい題材から、難しく退屈な話なんじゃないかと敬遠する人がいるかもしれないけど、
そんな心配は無用です。

ある塾の50年にも及ぶ戦いを描いているのだけど、
教育とか関係なくとにかく物語が単純に面白い。
森絵都さんの物語る腕力(筆力)がすんごいので、どんどん引き込まれていく。
(これを読むと森さんが作る物語の面白さと見事なストーリーテラーぷりに誰もが気付くハズ)

学校教育が太陽だとしたら、塾は月のような存在だ。
太陽の光を十分に吸収できない子供たちを、暗がりの中で静かに照らす月。
今はまだ儚げな三日月にすぎないけれど、必ず満ちていく。
そう信じて塾を立ち上げた吾郎と千明の夫婦。

永遠に続く塾と文部省の不毛の対立。

先頭を走る子だけではなく、転んだ子供に寄り添うことこそが塾の在りかただと説く心優しい吾郎。
しかし気が強く現実的な性格の妻の千明は
塾の未来を見据え、補修塾から進学塾への趣旨がえを吾郎に提案する。

千明が進める、教育を商売化していく流れに吾郎は反発し、
やがて二人は別々の途を辿ることに…。


聡明で心優しく、母・千明とは別の道で教育に携わっていくこととなる長女・蕗子(ふきこ)。
勝ち気で成績優秀、空恐ろしいほど胆が座った次女の蘭。
人懐っこく明るいが勉強嫌いの三女・菜々美。
不器用でおっとりした性格だが、いつしか教育の世界に惹かれ、学校でも塾でもない新しい学びの場を作っていくこととなる蕗子の息子の一郎。
そして優しく子供思いだが、女にはだらしのない(笑)吾郎を筆頭に
登場人物たちの人間臭さが本当に魅力的で…。
だからこそ、最後のページを閉じた後も、胸にストーリーが広がり続け、登場人物たちのその後に思いを馳せてしまう。


子供たちに真の知力を授けるための授業、テストや受験のためだけじゃない教育とはいったいどういうものなのだろう。

落ちこぼれを作らず、環境や貧富の差を越えて
誰もが平等に学べる場所を作り維持していくことは果たして可能なのか?

吾郎や千明やその娘たちのそれぞれの生き様に一喜一憂しながら、
『学ぶ』こと、『教える』ことの本当の意味や意義を
深く考えさせられた至福の読書時間だった。


『みかづき』とは満月たりえない途上の月。
このタイトルに込められた真の意味を知ったとき、
なぜこの家族が50年もの長い年月を
教育に捧げたのかが解った気がした。


クロニクルが好きな人や物語の醍醐味を堪能したい人、
読みごたえのある家族ドラマに飢えてる人、
子供のいる人、今学生の人、教職に就いてる人、夢を諦めたくない人などに
特にオススメします。


https://youtu.be/-u2kE_KlSL8

集英社のみかづき紹介ビデオ

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2018年1月13日
読了日 : 2018年1月13日
本棚登録日 : 2018年1月13日

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