いやぁー、面白かったぁー!
島田荘司さんの社会派ミステリー。また、島田さんの都市論が存分に展開される物語でもある。
ゆっくりと、しかし深く練りこまれた一人の「見えない女」の罪と軌跡を、一つの火災事件から刑事が丹念にたどっていく。
その過程はとても細く、少しでも力を入れれば途中で切れてしまいそうな糸のようだ。見つけたと思ってそっとたぐってみても、すぐに手ごたえがなくなってしまう。それでも、少しずつ少しずつ彼はその一人の孤独な女の正体をつかんでいく。
どうにか彼女の故郷をつきとめ、そこまで赴く刑事の見て、聴いて、感じたものすべてが読者にその見知らぬ「彼女」の姿を形作っていく。彼女がどう生まれ、またどう生活し、そして誰を愛したのか……。それらのことが、その土地から、その風土から、そしてそこに住む人々の姿から立ち上って来る。
刑事が「ここに来てよかった」と胸の中で述懐する場面にはっとさせられる。
都市論としてとても印象的な本書だが、私はやはり「その土地で生きていくということ」が一人の女の姿を通して描かれてあるという点で、とても感銘を受けた。
東京が怖かった、今でも怖い、という感覚が説得力を持って伝わってくるのは、きっと(刑事の目を通して)読者が犯人の故郷を見たからだろう。
何もわからなかった、誰もいなかった、だって何も知らないから……という犯人の孤独が、ひしひしと染みる。
私はこの本を、川本三郎さんの『小説を、映画を、鉄道が走る』を読んで手に取った。
『小説を~』でも触れられているが、『寝台特急「はやぶさ」1/60秒の壁』でも島田さんは新潟へ吉敷刑事を向かわせている。そこの場面を、私はよく覚えている。島田さんは実際、新潟の土地にとても感銘を受けたのではと思う。確かそこでも吉敷刑事は、「どうしてこんな土地に人は住まなくてはならないのだろう」というようなことを言っていたように思う。
島田さんの故郷は福山、そして吉敷刑事の故郷はたしか尾道の設定だった。つまりは、瀬戸内海沿いだ。私は尾道に行った際、その海の包まれるような穏やかさにとても感動したが、あの海を見て育ったなら確かに、新潟の日本海にはショックを受けるかもしれないなぁ、と思う。……
育った土地、生きた土地の記憶は、その人の一部となって他の土地へ移っても生き続ける。そういうものなんだろうと思う。
- 感想投稿日 : 2014年3月17日
- 読了日 : 2014年3月9日
- 本棚登録日 : 2014年3月9日
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