生物と無生物のあいだ (講談社現代新書)

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  • 講談社 (2007年5月18日発売)
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ウイルスは生物なのか?

筆者の主張…生物ではない。生命とは自己複製するシステムである、との定義は間違いである。

であるならば、生命とはいったいなんなのか?

【純化のジレンマ】
実験材料を99.9%純化したとしても、残りの0.1%に病気を引き起こす重大な物質が、誤って混入しているかもしれない。化学実験では、この0.1%を取り除いて100%状態にすることは不可能である。

【DNA】
DNAが運んでいるのはあくまで情報であり、実際に作用をもたらすのはタンパク質である。このDNAの上に、いろいろなタンパク質由来の物質を作り出すための設計図が書き込まれている。その設計図は4種の文字で出来ているシンプルな構造であるため、外部からの紫外線や放射線で文字のコードが少し変われば、タンパク質の作用に大きな変化をもたらす。

DNAは単なる文字列ではなく、必ず対構造をとって存在している。AとT、CとGが対になって日本の鎖を形成しているため、AとTの数、CとGの数は同じである。

重要なのは、DNAがペアリング構造になって存在しているという事実である。これは情報の安定につながるのだ。
対構造ということは、一方の文字列が決まれば他方も同時に決まるため、どちらか一方が部分的に失われても、他方をもとに容易に修復することができる。
細胞分裂による自己複製システムが可能なのはこれが理由だ。
ここに、「生命とは、自己複製を行うシステムである」との定義が生まれる。

【原子はなぜこんなに小さい?】
これはつまり、「なぜ我々の身体は、原子と比べてこんなに大きいのか?」という問である。
原子の集合は一様に拡散をするものの、中には平均から外れたふるまいをする原子が(もとの原子の√数分)必ず存在する。
100個程度の原子が少ない生物であれば、例外分子は10個であり、原子が勝手な振る舞いをする確率は10%となり、致命的な誤差が生まれる。
しかし、何億個もの原子からなる生物であれば、√100億個の分子が勝手な振る舞いをするものの、分母が大きいため、誤差率が下がり高度な秩序が保たれる。

しかしながら、生物は拡散が完全に止まった「平衡」状態=死を遅らせるすべを有しているように見える。生命には、「現に存在する秩序が、その秩序自身を維持していく能力と秩序ある現象を新たに生み出す能力」を持っている。

私達は自分の皮膚や爪が絶えず新生しつつ、古いものと置き換わっていることを実感できる。しかし、置き換わっているのは表層だけでなく、骨や歯、分子でさえも、いっときも安定することなく絶えず入れ替わっている。
つまり、これらをよりマクロな目線で見れば、「生命とは要素が集合してできた構成物ではなく、要素の流れがもたらすところの効果である。」のだ。この分子の高速な入れ代わりこそが、生命という「現象」なのである。

「生命とは動的平衡にある流れである。」

こうした破壊と再生を繰り返しながら平衡を保つことがなぜ可能なのかは、タンパク質の形には相補性(あるピースの形は、それと隣接するピースの形によって一通りに決定される)があるから、言い換えれば、次々と作られるピースが収まるべき位置をあらかじめ決められながら、天文学的な数の補完を行っているから。

形の相補性に基づいた相互作用が、常に離合と集散を繰り返しつつネットワークを広げ、動的な平衡状態を導き出す。
ここである遺伝子を生物の受精卵時点から完全に排除しても、動的な平衡がその途上でピースの欠落を補完しつつ、新たな平衡を生み出すことができる。
しかし、平衡系は偶発的なピースの欠落に対しては柔らかくリアクションできるが、人為的に欠落させたものに対しては、空隙を埋められないまま組織化が進行し、歪みをネットワーク全体にひろげてしまう。
分子の部分的な欠落や改変のほうが、「分子全体」の欠落よりも害を与えうるのだ。
機械と生物が違うのは、時間の有無である。
作り出されるはずのピースが存在せずに生物の時間が流れると、形の相補性が成立しないことに気づかずに、全体の形を不安定にしながら完成されていく。
それは、一度折り目をつけてしまった折り紙のように、不可逆的な構造として編まれていく。
機械には時間の概念がなく、完成したあとからでも部品を抜き取ったり、交換することができる。

生物には時間がある。その内部には常に不可逆的な時間の流れがあり、その流れに沿って折りたたまれ、一度折りたたんだら二度と解くことはできない。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2020年8月4日
読了日 : 2020年8月4日
本棚登録日 : 2020年8月4日

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