本の読み方 スロー・リーディングの実践 (PHP新書)

著者 :
  • PHP研究所 (2006年8月17日発売)
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【感想】
本を数十倍のスピードで読む「速読術」の指南書がたくさん溢れかえっている。一語ずつ精読するのではなくブロック単位で読む、本全体の構造をざっと把握する、映像のように文章を焼き付け、一度読んだ部分は決して振り返らない……。
私も速読術を試したことはあるが、正直上手くいかずに止めた。そもそも時間を惜しむように読書をしておらず、むしろ「読書のためにたっぷり時間を使いたい」タイプだ。

本書の筆者である平野氏も、こうしたコスパ重視の読書を嫌う。「速読なんて意味が無い」「世に出回っている速読本のほとんどが、自己啓発書のような見せかけだけの本だ」と断じ、代わりに5年後、10年後まで残るような「スロー・リーディング」の実践を説いている。

速読vs遅読というテーマの根本には、「質と量のどちらが重要か?」といった問いがある。
この問いは簡単に白黒つけられるものではない。例えばスポーツの練習であれば、目標を明確にして効果的な方法を実践することで、効率よく上達することができる。しかし、バットを握ったこともない初心者は「効率的」という段階にすら立てないため、「基礎練をとにかくこなせ」という練習を取り入れるのもおかしくない。読書も同じで、スピードに徹するあまり適当に読み飛ばしてしまうのは論外だが、少なくとも「色んな本を速いペースでたくさん読みなさい」というのは、方法としては正しいだろう。
要はバランスなのだが、本書はどちらに重きを置いているか。これは本文中で明確に「読書を楽しむための方法論」とうたっている。つまり、知識をインプットする目的ではなく、書き手の心理に立ち、内容を精査しながら表現を味わい尽くす目的である。

結局のところ、読書という作業をどう人生に結びつけるかによって、本の読み方は変わってくる。
当たり前だが、読んだ内容が頭に残らなければ意味が無い。また、頭に残った情報を自分の血肉にしなければ意味がない。速読もスロー・リーディングも、どちらもこのスタンスに立っている。使い方が違うだけだ。速読では「文章の大部分は無駄書きなのだから、エッセンスだけを抽出して読むべし」とし、スロー・リーディングでは、「テクストの裏にある筆者の意図を解き明かすぐらい慎重に読むべし」としている。
どちらが良いかは、あなたの日々の過ごし方次第だ。しかし、長い人生を考えれば、やはりゆっくりと味わいながら読むほうが、結果的に得をするのは間違いないだろう。

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【まとめ】
1 速読は何も残らない
一冊の本を、価値あるものにするかどうかは、読み方次第である。一冊の本にできるだけ時間をかけ、ゆっくり読むことを「スロー・リーディング」と呼ぶ。

速読のあとに残るのは、単に読んだという事実だけだ。スロー・リーディングとは、それゆえ、得をする読書、損をしないための読書と言い換えてもいいかもしれない。

読書を今よりも楽しいものにしたいと思うなら、書き手の仕掛けや工夫を見落とさないというところから始める必要がある。
私たちは、情報の恒常的な過剰供給社会の中で、本当に読書を楽しむために、「量」の読書から「質」の読書へ、網羅型の読書から、選択的な読書へと発想を転換してゆかなければならない。

速読とは、「明日のための読書」である。翌日の会議のために速読術で大量の資料を読みこなし、今日の話題のために、慌ただしい朝の時間に新聞をざっと斜め読みする。それに対して、スロー・リーディングは、「5年後、10年後のための読書」である。


2 誤読を恐れるな
「誤読」にも、単に言葉の意味を勘違いしているだとか、論理を把握できていないといった「貧しい誤読」と、スロー・リーディングを通じて、熟考した末、「作者の意図」以上に興味深い内容を探り当てる「豊かな誤読」との二種類がある。

本を読む喜びの一つは、他者と出会うことである。自分と異なる意見に耳を傾け、自分の考えをより柔軟にする。そのためには、一方で自由な「誤読」を楽しみつつ、他方で「作者の意図」を考えるという作業を、同時に行わなければならない。これは、スロー・リーディングの極意とも言えるだろう。

誤読要素(どうして作者はこういうふうに書いたのだろう)に当たったときに大切なのは、立ち止まって、「どうして?」と考えてみることだ。作者は一体、何を言おうとしているのだろうか?そしてその主張は、どんなところから来ているのだろうか?それを探るのは、常に、奥へ奥へと言葉の森を分け入っていくイメージである。
1冊の本をじっくりと時間をかけて読めば、実は、10冊分、20冊分の本を読んだのと同じ手応えが得られる。実際に、その本が生まれるには、10冊、20冊分の本の存在が欠かせなかったからであり、私たちは、スロリーディングを通じて、それらの存在へと開かれることとなるのである。

自分にとって本当に大切な本を、5年後、10年後、折に触れて読み返してみよう。その印象の変化を通じて、私たちは自分自身の成長のあとを実感するだろう。


3 読むときの方法論
・人に話すことを想定して読む。
・テクストに対して、常に「なぜ」と考えてみる
・違和感に注目する
・書かれた時代背景や5W1Hを考える。
・形容詞・形容動詞、副詞等は、それ自体というよりも、なぜ他の修飾語ではダメだったのかを考えてみる。そのときは、対義語を考えてみるとよい。
・逆説の接続詞に着目する。
・筆者の主張にマークをつける。
・「こう書いたほうがいいんじゃないか」と、作者に意見してみる。
・嫌になったら休憩を取る
・誤読を恐れない。自分なりの解釈を思い切り楽しむ。
・小説の読み方に正解はない。作者の意図を理解しようとするアプローチ、自分なりの解釈を試みようとするアプローチ、つねにこの二本立てで本を読む。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2022年10月25日
読了日 : 2022年10月23日
本棚登録日 : 2022年10月23日

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