喪失したからこそ永遠に忘れられないものがある。それは、繰り返し思い出し、懐かしむものではなく、心の奥底に封じ込め、分離し、完結させるもの。人はそれを「標本」にする。
存在したものが消えてなくなること。
それは万物の理とでもいうのかな。
けれどこの作品で、「ある」ものと「ない」もの、その両方が不安定な均衡で一緒に存在することに気づかされた。
消滅したはずのものが「標本」を通じて、そこにあること。とても神秘的でありながら、あまりにも当然のことのようにも思えるのだ。
彼の手のなかで揺らめく「わたし」の一部。ひそやかに恍惚に。「わたし」はそこにある。
読書状況:読み終わった
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カテゴリ:
日本文学:著者あ行
- 感想投稿日 : 2019年5月7日
- 読了日 : 2019年5月7日
- 本棚登録日 : 2019年5月7日
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