薬指の標本 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (1997年12月24日発売)
3.68
  • (928)
  • (1196)
  • (1767)
  • (186)
  • (30)
本棚登録 : 11036
感想 : 1258
5

喪失したからこそ永遠に忘れられないものがある。それは、繰り返し思い出し、懐かしむものではなく、心の奥底に封じ込め、分離し、完結させるもの。人はそれを「標本」にする。

存在したものが消えてなくなること。
それは万物の理とでもいうのかな。
けれどこの作品で、「ある」ものと「ない」もの、その両方が不安定な均衡で一緒に存在することに気づかされた。
消滅したはずのものが「標本」を通じて、そこにあること。とても神秘的でありながら、あまりにも当然のことのようにも思えるのだ。

彼の手のなかで揺らめく「わたし」の一部。ひそやかに恍惚に。「わたし」はそこにある。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 日本文学:著者あ行
感想投稿日 : 2019年5月7日
読了日 : 2019年5月7日
本棚登録日 : 2019年5月7日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする