ページを捲っていると、わたしから切り離された魂魄が仄暗い湖の底に沈んでいくのが分かる。ああ、この感じ。最初は水の冷たさにぞわぞわするけれど、水中の色が濃くなっていくほど、とろりとした温かい何かに包み込まれたように心持ちになっていく。
この短編集では、突然この世から切り離されたものが、まるで宝物のような秘密と煌めきを持って描かれる。たとえば「突然訪れる死」「ハムスターの切り取られたまぶた」「もげた背泳ぎの強化選手だった弟の萎えた左腕」「髪の毛が生えた卵巣」失ったものは、もう戻ってこない。それらは死の塊となって、そっと生きる人間の心に寄り添っている。きっと、わたしたちはすぐそばの「死」の気配に時折耳を傾けながら、生きていくのだろう。
読書状況:読み終わった
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カテゴリ:
日本文学:著者あ行
- 感想投稿日 : 2020年5月7日
- 読了日 : 2020年5月7日
- 本棚登録日 : 2020年5月7日
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