静かな秋の夜長にぴったりでした。しっとりした余韻に浸れる8つの物語です。
特に気にいったのは『20マイル四方で唯一のコーヒー豆』と『きみのためのバラ』
『20マイル四方で唯一のコーヒー豆』は、旅の本来の意味を教えてくれるような気がしました。
八方塞がりの心を抱えて旅にでる。この特別な日々。何も考えずにたくさんのものを見て、知って、いつの間にか気持ちはすごく楽になる。ずっといることは出来ないけれど、でも今はいいんだと思える。居心地の良い空気に、少し口が軽くなる。そうしてもう大丈夫なんだと思える自分がいる。そのために人はこうして遠くまでいくのだなと気づくのです。
『きみのためのバラ』では、決して失ってはいけなかったはずのものが、いつの間にか零れ落ちてしまっていたような喪失感を味わいました。
混雑した電車の中を不穏な気持ちで乗客を分けながら車両を移動する現在と、混雑する汽車の中を会いたい人のために黄色いバラを手に客車のなかを進んで行く過去。この対比に、どうしてこの世界はこんなことになってしまったのだろうとの思いが強くなります。
混沌とした強欲と悪意に満ちた現在。もう会うことはないとわかりながら彼女にかけた「アスタ・ルエゴ またね」という言葉は、希望と喜びに溢れた過去への別れの言葉でもあったのでしょう。
読書状況:読み終わった
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カテゴリ:
日本文学:著者あ行
- 感想投稿日 : 2017年10月18日
- 読了日 : 2017年10月18日
- 本棚登録日 : 2017年10月18日
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