隠蔽捜査 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (2008年1月29日発売)
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感想 : 625
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某刑事ドラマでの主人公の所轄刑事が警察官僚たちに向かって叫んだ「事件は会議室で起きているんじゃない。現場で起きてるんだ!」世代(……よりだいぶん前です、すみません^_^;)のわたしにとっては、「え、警察官僚が主人公の警察小説って面白いの~!?所轄と対立とかキャリア仲間の足の引っ張り合いとかそんなありきたりなものでは満足しませんよ~」とちょっと高をくくってました。
ところが初っぱなから、この物語の主人公である竜崎の言動に「うん?世の中の奥さん方を敵に回すような、いけ好かない奴だな」とまずはムッとして、けれど次第にこの男何か違うぞと第一印象とのギャップに戸惑いはじめ、「お、今までにない新しいドラマが始まるな、これは!」と姿勢を正して本腰を入れて読み始める始末……竜崎の警察官僚としての「役割」「役目」を命をかけて果たそうとする姿に熱くなります。

ある連続殺人事件を巡り、警察全体の秩序を守るため間違った指示を出そうとする国家警察。その方針を受け入れざるを得ない地方警察。その捜査本部の責任者である幼なじみの伊丹に待ったをかけるのが竜崎です。
世の中は正論が通用するとは限らないんだと言う伊丹に、正論が通用しないのなら、世の中のほうが間違っているんだと竜崎は言い放ちます。その通りなんですよね。本当、その通り当たり前のことなんですよ。それが現実でも、いつも物事が難しくこんがらがったり、うやむやになったり、簡単に事が運ばないのはなぜでしょう。
狭い取調室で2人が激論を交わすこのシーンが、私の中では山場でした。外に漏れてはいけないから決して大声で言い合うわけにはいかない分、余計に2人の緊迫した空気感が伝わってきます。

そんな竜崎も家庭では、妻の冴子からは「無能な父親」と言われてます。けれど、家庭で起きたある事件に対して、竜崎が父親として取った行動に冴子は一番父親らしいことをやったと伝えます。その決断は子どもたちにも、きっと父親としての竜崎の想いは伝わっているでしょう。竜崎も冴子さんには頭が上がらないのではないでしょうか。「国のために働きなさい」と家庭のことを一手に引き受けて竜崎の背中を押してくれる冴子さんを、大切にしてくださいね。彼女がいてこそ、国家のために全身全霊で働けるのですから。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 日本文学:著者か行
感想投稿日 : 2018年6月7日
読了日 : 2018年6月7日
本棚登録日 : 2018年6月7日

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