かおるが“あるときふと気が付いたら、わたしは十分におかしかった。”と振り返ることから始まる。
わたしにも経験がある。
何でこんなことになってるんだろう。ふと我に返ると何だかおかしいことをしている。それは他人様に迷惑をかけたり、自分を追い詰めたりするものでもないし、特にそれが苦痛とか快感とかそんな気持ちになるわけでもない。
だから気づくのが、ふとした瞬間になってしまう。
あれ?何でだっけ?原因がわからない。いや、あれかな、これかなと思い当たる節は何個かある。でも決定的ではないし、そのうち悶々とした気持ちが薄れてしまって、またふと我に返るときまで同じことを繰り返している。
かおるの胃袋はまるでブラックホールのようだ。食べても食べても食べ物への執着が収まらない。特に体や心が不調というわけでもないし、過食症でもない。かおるは淡々と異様な食欲を受け入れる。原因はいくつか思い当たるけれど、それがそうなのか本当のところわからない。
親友の真由子には相談したけれど、彼氏の吉田さんには打ち明けなかった。
「いいの。別に、必要性をかんじないから」
この言葉に彼女自身が気づかない心の砦のようなものを感じた。特別意味のあることではないから、必要性がないからと、かおるは言うのだけれど、これから彼女の身に起こる何か不安めいたものを、先に体が感知したんじゃないかなと思った。
かおるは吉田さんとの別れを経験して、今の状況を抜け出たいと思うようになる。そして今自分に必要なのは、心を込めて作った料理だと悟る。彼女は弟の航平を手作りの夕食会に招いた。それは微笑みと満足に彩られた平和な食事だった。
航平との優しい時間を過ごしたことで、かおるの心は哀しみを受け入れることが出来、それはブラックホール化した食欲の終焉を意味していた。
終わりが始まり。
そんな言葉を思い出した余韻の残る物語だった。
- 感想投稿日 : 2017年12月3日
- 読了日 : 2017年12月3日
- 本棚登録日 : 2017年12月3日
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