前回、淳水堂さんとの鬼平トークが盛り上がり、鬼平読んでいきましょう会をまったりゆる~く始めることと相成りました。ぱちぱち……。
さて、わたしは9巻です。
え……えっ、え~!!
わたしは叫びましたよ。声がひっくり返りました。
おまさが、おまさがあぁぁとなった『鯉肝のお里』です。
鬼平の世界では、平蔵の妻という立場よりも女密偵になりたいわたし。そう、平蔵への叶わぬ想いを抱きながら、彼のために命を懸ける女スパイ〈おまさ〉になりたいのね。
そのおまさが、平蔵のある密偵と情を交わしあっちゃったのです。
まさかね、ええ、ええ、本人も言ってますけど「こんなことになろうとは……」
おまさも三十をこえ「女は何よりも、男の肌身に添うているべきものだ」っていう時代では、これは喜ばしいことなんでしょう。
相手のお方はですね、盗賊時代は首領を務めたこともある貫禄のある男。盗みの三ヶ条を守りぬいてきた本格派。そんな仕事もできて、人柄もよい男とお役目とはいえ、1ヶ月もひとつ屋根の下で寝起きしてたらね、そりゃあ、何かの拍子にクラクラときちゃうのもわかりますよ。
おまさだってわかってるのです。いつまでも夢見る少女でいられない……ってことは。
(これでいい……これで、いいのだ……)
おまさの心の声が切ないじゃないですか。
だけどね、実は平蔵さんがこうなるように画策し、2人を一つ家に住まわせたとなっちゃね。
おまけに、「盗賊改メの御頭が、女密偵に手を出せるか」ってね。
ちょっと銕つぁん、ひと言言わせておくんなさいよ!
おまさだって、平蔵さんとどうかなりたいなんてこと望んじゃいないと思ってますよ。
だけどね、愛する人が自分を違う男とくっつけようとしたなんて、何だか悲しいじゃないですか。
彦十の爺つぁんの方が、おまさの乙女心がわかってるってもんよ。
そりゃあ、わたしだって頭んなかでは理解してますよ。
平蔵さんだって、やっぱりおまさのことが大切だから、女の幸せを与えてあげたいってことだったのでしょう……と。
でもね、こころが何だか割りきれないのですよ。
だから、平蔵の「こころとこころは別のことよ。」って言葉、考えちゃいました。どういうことなんだろう。
わたしは、こころは誰のものでもないし、こころのなかでずっと好きな人を想ってることはいけないことじゃないと思うのよね。ただその想いは深いところで眠らせておいて、時折夢の中で会えればいい。そして今、目の前にいる人を愛して、幸せな日々を過ごしていきたい。そんなどちらの気持も本物で、そうやって折り合いをつけながら、大人になっていくのだと思ったのね。
彦十の爺つぁんはおまさの乙女心を慮ってくれたけど、平蔵はおまさの女心を救ってくれたのかもしれないな。
ちょっとしんみり……となったわたし。
そんなわたしを慰めてくれるのは、やっぱり可愛い動物でしょう!
『本門寺暮雪』で登場したのはワンちゃん。後に〈クマ〉と平蔵に名づけられる茶色の柴犬との出会いの物語。ワンちゃんは平蔵があげた煎餅の恩を忘れずに、平蔵を絶体絶命の場面から助けちゃうのです。そのことから平蔵の家の仔になったクマ。人懐っこいし、ギューとしちゃいたくなりますよ。ほら喜楽煎餅だよ。煎餅あげちゃうよ。
あと、怪談めいた異色な展開をしたのは『狐雨』でした。あまり良い噂の聞かない男の隠された素顔が怪異によって暴かれるのです。
もしかしたら、その男の良心の呵責や少年期の継父との関係などが、心の葛藤となって奇怪な行動として現れちゃったのかなぁ。
普段と違うみんなのあたふた感、それに対して堂々とした久栄さん。そんな姿が見られる後半にかけて面白くなっていきました。
『雨引の文五郎』『泥亀』では、印象的な盗賊、元盗賊が登場しました。やっぱり名物盗賊が動き回ると勢いが出てきます。
『浅草・鳥越橋』では、盗賊間の裏切りや策略に嵌まる男、『白い粉』では、自分の心の弱さから盗賊に弱味を握られ、平蔵や周囲の人たちを裏切ることになる料理人が登場する、ちょっと苦い後味が残るお話でした。
- 感想投稿日 : 2020年8月15日
- 読了日 : 2020年8月15日
- 本棚登録日 : 2020年8月15日
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