決定版 鬼平犯科帳 (9) (文春文庫) (文春文庫 い 4-109)

著者 :
  • 文藝春秋 (2017年4月7日発売)
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感想 : 13
5

前回、淳水堂さんとの鬼平トークが盛り上がり、鬼平読んでいきましょう会をまったりゆる~く始めることと相成りました。ぱちぱち……。
さて、わたしは9巻です。

え……えっ、え~!!
わたしは叫びましたよ。声がひっくり返りました。
おまさが、おまさがあぁぁとなった『鯉肝のお里』です。
鬼平の世界では、平蔵の妻という立場よりも女密偵になりたいわたし。そう、平蔵への叶わぬ想いを抱きながら、彼のために命を懸ける女スパイ〈おまさ〉になりたいのね。
そのおまさが、平蔵のある密偵と情を交わしあっちゃったのです。
まさかね、ええ、ええ、本人も言ってますけど「こんなことになろうとは……」
おまさも三十をこえ「女は何よりも、男の肌身に添うているべきものだ」っていう時代では、これは喜ばしいことなんでしょう。
相手のお方はですね、盗賊時代は首領を務めたこともある貫禄のある男。盗みの三ヶ条を守りぬいてきた本格派。そんな仕事もできて、人柄もよい男とお役目とはいえ、1ヶ月もひとつ屋根の下で寝起きしてたらね、そりゃあ、何かの拍子にクラクラときちゃうのもわかりますよ。
おまさだってわかってるのです。いつまでも夢見る少女でいられない……ってことは。
(これでいい……これで、いいのだ……)
おまさの心の声が切ないじゃないですか。

だけどね、実は平蔵さんがこうなるように画策し、2人を一つ家に住まわせたとなっちゃね。
おまけに、「盗賊改メの御頭が、女密偵に手を出せるか」ってね。
ちょっと銕つぁん、ひと言言わせておくんなさいよ!
おまさだって、平蔵さんとどうかなりたいなんてこと望んじゃいないと思ってますよ。
だけどね、愛する人が自分を違う男とくっつけようとしたなんて、何だか悲しいじゃないですか。
彦十の爺つぁんの方が、おまさの乙女心がわかってるってもんよ。
そりゃあ、わたしだって頭んなかでは理解してますよ。
平蔵さんだって、やっぱりおまさのことが大切だから、女の幸せを与えてあげたいってことだったのでしょう……と。
でもね、こころが何だか割りきれないのですよ。
だから、平蔵の「こころとこころは別のことよ。」って言葉、考えちゃいました。どういうことなんだろう。
わたしは、こころは誰のものでもないし、こころのなかでずっと好きな人を想ってることはいけないことじゃないと思うのよね。ただその想いは深いところで眠らせておいて、時折夢の中で会えればいい。そして今、目の前にいる人を愛して、幸せな日々を過ごしていきたい。そんなどちらの気持も本物で、そうやって折り合いをつけながら、大人になっていくのだと思ったのね。
彦十の爺つぁんはおまさの乙女心を慮ってくれたけど、平蔵はおまさの女心を救ってくれたのかもしれないな。

ちょっとしんみり……となったわたし。
そんなわたしを慰めてくれるのは、やっぱり可愛い動物でしょう!
『本門寺暮雪』で登場したのはワンちゃん。後に〈クマ〉と平蔵に名づけられる茶色の柴犬との出会いの物語。ワンちゃんは平蔵があげた煎餅の恩を忘れずに、平蔵を絶体絶命の場面から助けちゃうのです。そのことから平蔵の家の仔になったクマ。人懐っこいし、ギューとしちゃいたくなりますよ。ほら喜楽煎餅だよ。煎餅あげちゃうよ。

あと、怪談めいた異色な展開をしたのは『狐雨』でした。あまり良い噂の聞かない男の隠された素顔が怪異によって暴かれるのです。
もしかしたら、その男の良心の呵責や少年期の継父との関係などが、心の葛藤となって奇怪な行動として現れちゃったのかなぁ。
普段と違うみんなのあたふた感、それに対して堂々とした久栄さん。そんな姿が見られる後半にかけて面白くなっていきました。

『雨引の文五郎』『泥亀』では、印象的な盗賊、元盗賊が登場しました。やっぱり名物盗賊が動き回ると勢いが出てきます。
『浅草・鳥越橋』では、盗賊間の裏切りや策略に嵌まる男、『白い粉』では、自分の心の弱さから盗賊に弱味を握られ、平蔵や周囲の人たちを裏切ることになる料理人が登場する、ちょっと苦い後味が残るお話でした。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 日本文学:著者あ行
感想投稿日 : 2020年8月15日
読了日 : 2020年8月15日
本棚登録日 : 2020年8月15日

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コメント 6件

kuma0504さんのコメント
2020/08/15

あのーすみません、私、確か30年くらい前に10数巻まで読んでいるはずなんですが、このくだり全然思い出せません。これって、やっぱり女心がわかってなくてさらりと通り過ぎたってことなんでしょうね。もう一度引っ張り出して読まなくちゃいけないと言うことなのかなあ。でもその段でいくと、再読に耐え得るホンはいくらでもあるわけで、楽しみに会の推移を見守らせてください。

地球っこさんのコメント
2020/08/16

kuma0504さん、おはようございます!

そうですね、女心がわかっておられなかったのかもしれませんね……なんちゃって(古すぎるっ 笑)
するーと通りすぎるところだと思いますよ
(*^^*)
だって、本筋は盗賊を捕まえることなんですから。
わたしが、おまさが出てくると感情移入しちゃうので、そこがぐーんと目に留まっただけなので。
はい、サイドストーリーみたいなもんです。

月1冊ペースを基本に、まったーり好きなことをおしゃべりする(と、勝手にそんな感じに思ってるのですが……)鬼平会、kuma0504さんもまたお顔を出してくださったら嬉しいです♪

コメントありがとうございました。

淳水堂さんのコメント
2020/08/16

地球っこさん、鬼平会の淳水堂です(笑)

おまさは、二代目狐火と夫婦やってたときは密偵仕事も裏切り?も含めて自分の意思だったし、
張り込んでいるうちに身体の関係云々という話だったら割り切っていそうだから良いのですが、
鬼平の「男の肌身が必要」というのはこの当時(鬼平の当時というより池波先生の当時)の感覚なのかな、とは思いました。
まあ彦十は狐火の時のことも知ってるし、ちょうど良い相手なのでしょう、たのんだよ〜(←私の立場はなに?/笑)

狐雨は今で言えば病名が付きますよね。鬼平犯科帳シリーズにはそのような人たちが色々出てきて、これが狐憑きとか言われたんだなあなどと思います。
しかしこの同心の過去を考えるとちょっと哀れだとも思う。

まあ色々あっても犬のクマかわいいから良いとします!クマのお世話係を募集していたら応募したい(笑)

地球っこさんのコメント
2020/08/16

淳水堂さん、こんばんはー。
コメントありがとうございます!

鬼平の「男の肌身が必要」というのは、鬼平の当時というより池波先生の当時の感覚……なるほどなぁと思いました。

今じゃ考えられませんけどね。
でもわたしが結婚した、ついこの間(嘘おっしゃっい!)まで、寿退社が当たり前でしたからね。。。

あ、それとわたしの書き方が悪かったのですが、おまさの結婚相手は大滝の五郎蔵なんです。
彦十は、おまさが平蔵のことを好きなのを知ってるので、平蔵にそのことを伝えに言ってあげたんですよ。
気のいいお爺ちゃんです(*^^*)

平蔵はおまさの気持ちわかっていたようです。それでも、いや、だからこそ、五郎蔵とくっつけたかったみたいです。
五郎蔵、頼んだよ!(わたしの立場もなに? 笑)

クマのお世話係、はいっ、わたしも応募したいです 笑

では、では、鬼平会の地球っこでした♪

淳水堂さんのコメント
2020/08/16

ああ、読んだばかりなのに結婚相手を間違えました〜_| ̄|○

地球っこさんのコメント
2020/08/16

淳水堂さん、こんばんは。
わたしも、淳水堂さんのコメントを読ませていただくまで、おまさが2代目狐火と再会して結婚してたこと、すっかり抜け落ちてました(>_<)
平蔵の心持ちに惚れ惚れした良い話だったのに〰️。
思いださせていただきました、ありがとうございます 笑

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