人でなしの経済理論-トレードオフの経済学

  • バジリコ (2009年4月3日発売)
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感想 : 23
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 トレードオフという考え方は割と重要だと思うのだけど、個人的な感情からそこを切り離す必要がある為、世の中的には余り受け入れて貰えない事が多い。例えば情報セキュリティに関して一般の人からは「絶対の安心」を期待される。でも、当時の上司から一番最初に教わったことは「絶対はありえない」という事だった。でも、大抵お客さんは納得してくれない。そこでこんな事を話す。「1万円札を守る為に幾らまで払えますか?」

 本書でも停電の例で触れられているが、何かを行う為にかかる費用とそこから得られる便益を比較して、それが理に適っているかを見極める必要がある。

 例えば、以前ここにも書いた「500億ドルでできること」。あれも色々と物議を醸したが、様々な問題の費用と便益を検討した結果、500億ドル自由に使えるお金があれば、環境問題にお金を割く事より他にするべき事があるよ、という結論だった。

 本書では、喫煙問題や臓器移植の問題、著作権の問題や日照権の問題等を通じて問題には必ず費用と便益があり、そのトレードオフの見極めが重要な事が語られている。

 ただ内容は全体的に薄味だと感じた。もう少し数字や数式が飛び回るものを想像していたのだが、割とあっさり。訳者のあとがきにも書かれているが日照権の話や、臓器移植の話を「どっちでもいい」と投げているのは前述の「500億ドルでできること」などを読んでから本書を読んだ人などにとっては肩透かしされた感じがすると思う。

 それでも、トレードオフの考え方と言うものを理解するのには役立つと思う。本書の最後の方で著者が述べている「自分は最近はどちらにも肩入れしない」という言葉と、著者が引用している「解決策など無い。あるのはトレードオフだけ。」という2つの文に集約されていると思う。

 「500億ドルでできること」の問題は何に幾ら使うのが、費用/便益の考え方に於いて適切かを議論した結果の本なので問題の結論が出ている(勿論、反証も)。それはあくまで、費用/便益分析を道具として適切な分配を考えるのが目的だからだ。本書は費用/便益分析の考え方を学ぶ事が目的なので、個々の問題に何かしらの数値が入るのは余りよろしくないのだろう。

 薄味ではあるし、もう少し突っ込んだ議論が聴きたいとは思うが、本書の目的を考えると良いバランスだったのではないか。本書で満足出来なかったり、本書で得た費用/便益分析を用いた議論を読みたいのであれば、「500億ドルでできること」を読むと良いと思う。

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読書状況:未設定 公開設定:公開
カテゴリ: 読了
感想投稿日 : 2009年6月2日
本棚登録日 : 2009年6月2日

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