今回の旅は、奈良県南部、紀伊半島中部山塊の只中にある十津川地区を訪ねる。
山の民がいかにして時の政権と渡り合い、そして幕末には十津川郷という、藩にも似た自治組織として歴史に人を送り込んでいく、その軌跡が実際の旅を通して展開される、著者の思索への旅で描かれる。
中でも最も印象的なのは、出兵直前、熊野に徒歩旅行に行った時の著者のくだりである。
著者はこの世の理不尽さに身を浸しながら、この世の名残と十津川を通って熊野に出ようとするが、途中道に迷い、とある禅寺に拾われる。そこは十津川の入り口だったのだが、今回訪ねようとすると、すでに周囲とともにダムに沈んでいた。
著者は何とも言えない感情とともにその事実に、静かに坦々と呆然とする。
山間の静寂の中、いかに隔世の感がある里にも、やはり時の世と同じ時間が静かに時が流れている。
それを感じさせる1コマだった。
読書状況:読み終わった
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カテゴリ:
随筆・紀行文
- 感想投稿日 : 2010年5月16日
- 読了日 : 2010年5月16日
- 本棚登録日 : 2010年5月16日
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