街道をゆく 12 十津川街道 (朝日文庫 し 1-68)

著者 :
  • 朝日新聞出版 (2008年10月7日発売)
3.54
  • (3)
  • (12)
  • (10)
  • (3)
  • (0)
本棚登録 : 122
感想 : 9
4

今回の旅は、奈良県南部、紀伊半島中部山塊の只中にある十津川地区を訪ねる。

山の民がいかにして時の政権と渡り合い、そして幕末には十津川郷という、藩にも似た自治組織として歴史に人を送り込んでいく、その軌跡が実際の旅を通して展開される、著者の思索への旅で描かれる。

中でも最も印象的なのは、出兵直前、熊野に徒歩旅行に行った時の著者のくだりである。
著者はこの世の理不尽さに身を浸しながら、この世の名残と十津川を通って熊野に出ようとするが、途中道に迷い、とある禅寺に拾われる。そこは十津川の入り口だったのだが、今回訪ねようとすると、すでに周囲とともにダムに沈んでいた。
著者は何とも言えない感情とともにその事実に、静かに坦々と呆然とする。

山間の静寂の中、いかに隔世の感がある里にも、やはり時の世と同じ時間が静かに時が流れている。
それを感じさせる1コマだった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 随筆・紀行文
感想投稿日 : 2010年5月16日
読了日 : 2010年5月16日
本棚登録日 : 2010年5月16日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする