黙示 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (2015年7月29日発売)
3.61
  • (18)
  • (55)
  • (46)
  • (10)
  • (1)
本棚登録 : 485
感想 : 41
4

真山仁は、日本の様々な分野において問題提起をする。この黙示は、農業がこれでいいのか?ということを説く。根底には、日本の農業の再生をどう進めるのかにある。ここで、取り上げられるのは、農薬と遺伝子組み換えが主人公だ。
小説では、農薬散布中のラジコンヘリが小学生の集団に墜落する事故が発生。この本が書かれた時にはラジコンヘリであったが、今ではドローンで散布する。また、病害虫のあるところに向けて集中的に農薬を散布することもできるようになってきている。少し技術は進歩しているが、テーマは変わらない。カーソンの「沈黙の春」の警鐘から、農業に携わる人々が農薬をどう捉えるのか?ということは、大きな問題でもある。農薬と化学肥料によって、農業の生産量は飛躍的に高まった。増殖しつづけるニンゲンの〈食〉をどう支えるのか?問題意識は、深いものがある。
日本の農林省は、脱炭素社会をめざし、2050年までに農地の25%、100万ヘクタールを農薬と化学肥料を使わない農業へ拡大して行くという。現在の有機農業の面積は1万6000haであり、農業全体の栽培面積の0.4%だから、飛躍的な変化である。有機農業がなぜ広がらないのかという本質的な問題が明らかにされていない。相変わらず、農林水産省は勝手なこというご都合主義でもあるが、そうしなければならない環境を直視する農業を作る必要もある。
ラジコンヘリの暴走と墜落。農薬が直接子供達に降りかかる。子供の中には農薬開発者の息子がいた。その子供は意識不明となる。自分のつくった物で、自分の子供が被害に遭う。それでも、農薬は必要と考える平井。
戦場カメラマン代田がミツバチを育てる。代田は、農薬は 第2の放射能だという。
現在ミツバチは急速に死滅している。害虫を殺すものが、ミツバチをも殺すのだ。アセタミプリド、イミダクロプリド、クロチアニジンなどのネオニコチオイド系農薬がミツバチを殺す。
農薬開発者と平井とミツバチを育てる代田の対談がじつに興味深い。
世界的な天候不順(地球温暖化)による干ばつによって、農業は影響を受け生産量が減少するとされる。その干ばつに対応する遺伝子組み換えトウモロコシが広がって行く。農業技術は、問題があればそれに立ち向かおうとする。農水省で農産物輸出のビジネス戦略を命じられる女性キャリアの秋田。「弱い」と言われる農業を何とか強くすべく、若手官僚として農業に対する方向性を探す。植物工場、アグリトピア、フードバレー、原村、淡路島とひろがる。平井、代田、秋田という三人の主人公が、日本の農業と食の安全について、それぞれの立場から悩み解決しようとする。
中国が100万トンから400万トンの米を欲しがるという設定から、減反にたいする中国の提案。
これが、実におもしろい。日本の人口が高齢化と減少の中で、農業の生産量が過剰になって行く。一方で世界は相変わらず人口増加していることで食料不足は想定できるので、日本の農産物を輸出するということも視野におく。この本の提起されていることに、日本人は立ち向かうべきでもある。
ここでは、日本の肥料の過剰投入によって、環境を破壊し、地球温暖化を進める亜硝酸ガスの発生や農産物の硝酸態窒素の過剰について触れられていないのが、残念。日本の農産物の硝酸態過剰は、健康被害を起こし、病害虫を増やし、日持ちを悪くしてロスを増やしている。ヨーロッパの硝酸態窒素の基準をはるかに超えているので、オリンピック村の野菜は海外から輸入するということが起こっている。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 〈食〉
感想投稿日 : 2022年1月27日
読了日 : 2022年1月27日
本棚登録日 : 2022年1月27日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする