彼岸過迄 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (1952年1月22日発売)
3.61
  • (97)
  • (143)
  • (249)
  • (13)
  • (6)
本棚登録 : 1833
感想 : 136
3

頼りないけど憎めもしないちょっと捻れた明治ニートたちを中心とした、連作短編というよりはオムニバス形式という方がしっくりきた作品集。

どの話も取り立てて山や谷がある展開ではなく。
けれど、本作の狂言回し役と言って差支えないポジションにいる、大学を卒業したばかりで世間をまだよく知らない青年・敬太郎が様々な人と知り合い、その行動を眺め、彼らから話を聞く姿を読んでいて特に強く思ったのは。

個々の人生は独立したもので、その心のうちも行動原理も、それがどれほど身近な人間であっても、他者である以上は、どれほど親身になろうと、どれほど対話に努めても、決して伺い知れず踏み込めない部分が絶対にあるのだ、ということ。

その背景も相まって、従妹にして事実上の婚約者である千代子へ抱く鬱屈した思いを滔々と語る、敬太郎の友人・須永の姿には、その実、自分ですら自分の気持ちなんてわかっていないし、だからこそ何もしないというか出来ないのか、とまで思う。

それにしても須永は頭でっかちが過ぎる気がしたけれど。
でもこれが、血縁や家の縛りに抗うなんて考えることもできなかった明治規範の中で生きた人の一つの姿なのかもしれない。

正直、数ある漱石作品と比べて、特別に面白い作品!おすすめ!というわけではないです。
最後に全てがつながって…みたいな仕掛けがあるわけでもないし。

でも、生死を彷徨う大病から回復した漱石が
「かねてから自分は個々の短篇を重ねた末に、その個々の短篇が相合して一長篇を構成するように仕組んだら、新聞小説として存外面白く読まれはしないだろうかという意見を持していた。」
故に書き上げた意欲作であり、それだけに、次の話へ進めるためのさりげない繋がり部分が興味深かったりはします。

そうはいっても、漱石は意図せず既に処女作「吾輩は猫である」で連作小説の型を創り上げているし、そちらのほうがラストの衝撃度が強いです。
そして、現代文学をたくさん読んでいる人にとっては、もはや真新しい手法ではなく、むしろ古めかしく辿々しいくらいかもしれませんね。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2022年2月13日
読了日 : 2021年12月14日
本棚登録日 : 2021年12月14日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする