辞書並みに分厚いこの本の
長い長い物語を読み進めている間ずっと、
なぜ表紙が「小暮写真館」の写真ではなく
春景色の中を走る電車なのか、首を傾げていたのだけれど。。。
商店街の古い写真館にそのまま住もう!という酔狂な父のせいで
次々と不可思議な写真を持ち込まれ、
「心霊写真バスター」扱いされてしまう「花ちゃん」こと、英一。
でも、写真に写り込んだ「ありえないもの」は皆、幽霊ではなくて
もがきながら生きているひとの想いが投影されたものだった。
新興宗教に夫との仲を裂かれた女性。
仕事先の娘であった婚約者を何重もの不幸に追い込んで苦悩する男性。
絶対王政よろしく家族に君臨する父と盲従する母に苛立つ小学生。
母に絶望して「絶対零度女」という殻に自分を封じ込めた垣本順子。
そんな、写真の謎に導かれて邂逅したさまざまな人生に触れることで
幼くして病死した妹 風子の死の責任を
それぞれ心に抱えた両親、弟ピカ、英一自身の
「冷凍睡眠」させてきた想いが、ゆっくりと解凍されていく。
そして、英一という「駅」でひととき停車して
自分の中の壊れた部品を点検し、調整して発車していった垣本順子が
「あたしはとっくに走り出してる。」と送ってきた写真が
表紙の謎をすうっと解いてくれた瞬間の、爽やかな感動!
英一と彼女が、最後にインスタントカメラで撮り合った
現像しないままのお互いの写真。
そこに写っている相手の顔は、
シャッターを切ったふたりの想いを乗せて
きっと眩しく笑っている。
- 感想投稿日 : 2012年6月19日
- 読了日 : 2012年6月18日
- 本棚登録日 : 2012年6月19日
みんなの感想をみる