涙もろい人は、けっしてけっして、電車やカフェで読んではいけません!
家の中で本を開いた私でさえ、涙と鼻水の嵐で人前には出られない顔になって
「お願い!どんなにかっこいい佐川男子だろうと、今は宅急便運んでこないで!」
と、本の神様に祈ってしまったくらいなので。
まだ寒い4月の角館を、青空の下で咲き誇るしだれ桜を探して歩く
「おかえり」こと丘えりかの旅に、亡くなった母との最後の旅を思い出しました。
とはいっても、そのあと入院が決まっていた母と、父、私、娘4人の旅は
とにかくきれいなものを見よう、おいしいものを食べよう、楽しくおしゃべりしよう!
と、宿も決めずに春の道南を車で巡る、行き当たりばったりなものだったのですが。
急ごしらえの旅だったわりに、函館で満開の桜に感動したと思えば
ニセコでは、もう5月なのにスキーをしてる人がいて驚いたり
飛び込んだ民宿のご主人が、捨てられた犬猫を拾いまくって育てている人で
動物大好き♪ な母が、ずっとここにいたいと駄々をこねたり、本当に楽しくて。
ひと月ほどたって母が亡くなったあとも、父や娘と
「いい旅だったね。おばあちゃん、楽しそうだったよね」と話していたのですが。。。
なんとなんと、病院に母を見舞ってくれた従兄弟に聞いてしまったのです。
「叔母さん、次はアフリカに行きたいって言ってたよ。ライオンが見たいって」
腹水もたまっていて、美しい景色を探して歩くというよりは、数十分おきに
トイレを貸してくれるコンビニを探す、道南コンビニ巡りの旅みたいになってたのに。
。。。このわがまま娘!じゃなくて、わがままママめー!と大笑いしたのですが、
旅屋 おかえりだったら、最後の入院となった母のかわりに、
遥かアフリカまでも旅してくれたでしょうか。
修学旅行中スカウトされ、北海道最北端の礼文島から
希望に胸をふくらませて上京した、おかえり。
アイドルとして花開くこともなく、やがて「元アイドルのタレント」、
「売れないタレント」を経て、今や三十路の「旅屋」となった彼女が
さまざまな事情を抱えて自分では旅に出られない人たちに代わって
全国各地に旅をし、旅の「成果物」を持ち帰る物語です。
この「おかえり」、ただ単に依頼主の要望に沿って旅をするのではなくて
彼女自身も目いっぱい旅を楽しみ、時には当初の目的を逸脱しながらも
依頼した人の幸せを願ってお節介を焼きまくるのが、とてもいい。
なんとしても満開の桜を撮ろうと、ざあざあ降りの雨の中で濡れ鼠になったり
露天風呂をレポートしようとしてお湯の中に墜落したりするおかえりと一緒に
泣いたり、怒ったり、笑ったり、心で日本各地を駆け抜ける旅をしました。
旅を終えて戻ったとき、温かい「おかえり」を言ってもらえる人は幸せです。
そして、その幸せに包まれた人は、また他の誰かに
心から「おかえり」と言ってあげることができる。
温かい「おかえり」をつないでいくために、きっと旅はあるのです。
- 感想投稿日 : 2013年2月23日
- 読了日 : 2013年2月21日
- 本棚登録日 : 2013年2月23日
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