旅屋おかえり

著者 :
  • 集英社 (2012年4月26日発売)
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本棚登録 : 2103
感想 : 404
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涙もろい人は、けっしてけっして、電車やカフェで読んではいけません!
家の中で本を開いた私でさえ、涙と鼻水の嵐で人前には出られない顔になって
「お願い!どんなにかっこいい佐川男子だろうと、今は宅急便運んでこないで!」
と、本の神様に祈ってしまったくらいなので。

まだ寒い4月の角館を、青空の下で咲き誇るしだれ桜を探して歩く
「おかえり」こと丘えりかの旅に、亡くなった母との最後の旅を思い出しました。
とはいっても、そのあと入院が決まっていた母と、父、私、娘4人の旅は
とにかくきれいなものを見よう、おいしいものを食べよう、楽しくおしゃべりしよう!
と、宿も決めずに春の道南を車で巡る、行き当たりばったりなものだったのですが。

急ごしらえの旅だったわりに、函館で満開の桜に感動したと思えば
ニセコでは、もう5月なのにスキーをしてる人がいて驚いたり
飛び込んだ民宿のご主人が、捨てられた犬猫を拾いまくって育てている人で
動物大好き♪ な母が、ずっとここにいたいと駄々をこねたり、本当に楽しくて。
ひと月ほどたって母が亡くなったあとも、父や娘と
「いい旅だったね。おばあちゃん、楽しそうだったよね」と話していたのですが。。。

なんとなんと、病院に母を見舞ってくれた従兄弟に聞いてしまったのです。
「叔母さん、次はアフリカに行きたいって言ってたよ。ライオンが見たいって」
腹水もたまっていて、美しい景色を探して歩くというよりは、数十分おきに
トイレを貸してくれるコンビニを探す、道南コンビニ巡りの旅みたいになってたのに。
。。。このわがまま娘!じゃなくて、わがままママめー!と大笑いしたのですが、
旅屋 おかえりだったら、最後の入院となった母のかわりに、
遥かアフリカまでも旅してくれたでしょうか。

修学旅行中スカウトされ、北海道最北端の礼文島から
希望に胸をふくらませて上京した、おかえり。
アイドルとして花開くこともなく、やがて「元アイドルのタレント」、
「売れないタレント」を経て、今や三十路の「旅屋」となった彼女が
さまざまな事情を抱えて自分では旅に出られない人たちに代わって
全国各地に旅をし、旅の「成果物」を持ち帰る物語です。

この「おかえり」、ただ単に依頼主の要望に沿って旅をするのではなくて
彼女自身も目いっぱい旅を楽しみ、時には当初の目的を逸脱しながらも
依頼した人の幸せを願ってお節介を焼きまくるのが、とてもいい。
なんとしても満開の桜を撮ろうと、ざあざあ降りの雨の中で濡れ鼠になったり
露天風呂をレポートしようとしてお湯の中に墜落したりするおかえりと一緒に
泣いたり、怒ったり、笑ったり、心で日本各地を駆け抜ける旅をしました。

旅を終えて戻ったとき、温かい「おかえり」を言ってもらえる人は幸せです。
そして、その幸せに包まれた人は、また他の誰かに
心から「おかえり」と言ってあげることができる。
温かい「おかえり」をつないでいくために、きっと旅はあるのです。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: は行の作家
感想投稿日 : 2013年2月23日
読了日 : 2013年2月21日
本棚登録日 : 2013年2月23日

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コメント 12件

円軌道の外さんのコメント
2013/02/23


一週間お疲れ様です!

旅と言う言葉に
過剰に反応しちゃう(笑)
鉄砲玉王子参上〜(^O^)



わぁ〜
なんかまろんさんの
レビュー読ませてもらってたら
ここ最近ひた隠しにしていた旅心が
無性に疼いてきましたよ〜(汗)


ひゃあ〜
どうしよっ(>_<)



自分は全くなんの準備も
資金もナシに
歩きまたは電車で、
急に思いたって
旅に出ることが多いんです。

よく公園のベンチやら駅の中やら、
(勝手に忍びこんで)

ビルの階段やら、
橋の下やら、
犬小屋の中やら(笑)、
今までいろんな場所で
野宿しました(^_^;)


メキシコやジャマイカでも
行き当たりばったりで
猿岩石みたいに(笑)
ヒッチハイクして
過ごしてた時もあるし(笑)



やっぱ人間一度くらいは
今いる場所を離れて旅に出てみないと、
自分がその中で
何かに守られていたことすら
気が付かないし、

暖かな場所では
見えてこないものって
やっぱあるんですよね(^_^;)


そして人と出会うことだけが
人間を成長させてくれるって
自分は思ってるので、

人はもっと
旅に出なけりゃいけないんだと思うんです(笑)



ということで
原田さんの小説は
いまだにまだ一冊も読んでないんやけど(汗)、
コレは絶対読んでみたいなぁ(*^o^*)

心から共感できそうな気がするし(笑)
(つか、思いっきり涙もろいんやけど
大丈夫かな汗)


bluemoonstoneさんのコメント
2013/02/23

まろんさん はじめまして!
こちらこそフォローありがとうございます。

いや~ブクログ 全然使いこなせていないもので
コメントいただいたのも初めてなので
まろんさんにどーやったらコメントできるのか
四苦八苦しちゃいました(^^;
やっとここまでたどり着けました(笑)

まろんさんのレビューとっても素敵☆
本棚も参考にさせていただきます!!

今後とも どうぞよろしくお願い致します(^^)

nobo0803さんのコメント
2013/02/24

原田マハさん、まだ未読なんですよね~
まろんさんのレビュー読んでたら、早速読みたい本リストに追加!です。

涙もろい私は、一人ひたりながら読まないといけないかも・・

まろんさんの家族旅素敵ですね。
私は父が板前一筋で生きてきた人で、病気が見つかった時には、もう手遅れで・・・
旅行なんてめったに行かない父が、治ったら九州(父の故郷が大分で)に行きたいな~と言ってたのを思い出します・・結局いけなかったですが。
その分、私がいっぱい旅行していろんな景色を目に焼き付けようかな~と思ってます。
と、いいながら単に旅行好きなだけなんですが・・^^;

まろんさんのコメント
2013/02/25

円軌道の外さん☆

おお~!かっこいいなぁ!
ふらっと電車に飛び乗って、野宿も楽しみ、外国ではヒッチハイクの旅。
なんだかすごく円軌道の外さんらしい♪
私は、悲しくなるほどの方向音痴なので、
ふと思い立ってひとりであてもなく旅に出たりしたら
帰ろうと思ってもどんどん家から遠ざかってしまいそうですが
家族や仲間と旅をするのは、とても好きです♪

原田マハさんの本は、私も一番気になっている『楽園のカンヴァス』が読めてないのですが
この『旅屋おかえり』とか、『キネマの神様』とか、『本日はお日柄もよく』とかの作品は
温かいお人柄の円軌道の外さんなら、きっと気に入ってくださること請け合いです!
ちなみに『旅屋おかえり』は、クライマックスまでは大丈夫と思ってたのに、
なんというフェイント! これ、2冊に分けてもいいのに~!
と思うくらい、きっちり前半と後半で泣かされるので、油断しないで読んでくださいね(笑)

まろんさんのコメント
2013/02/25

bluemoonstoneさん☆

コメントありがとうございます!

私も去年の3月にブクログを始めたときには
コメントをいただいても、どうやってお返事すればいいのかさっぱりわからなくて
ハラハラドキドキしてました!おんなじですね♪
はるばるたどり着いてコメントをくださって、ありがとうございます(*'-')フフ♪

お名前もプロフ写真もとても素敵で、本の好みもとても似通っている
bluemoonstoneさんとお近づきになれて、本当にうれしいです!
こちらこそ、どうぞよろしくお願いします(*^_^*)

まろんさんのコメント
2013/02/25

noboさん☆

おお、noboさんのお父様は板前さんでいらしたんですね。
いなせな板前のお父さん、憧れです!

母に、最後に楽しい旅をプレゼントできたと思っていたら
なんと、予想外の「アフリカ行き」という野望を叶えてあげられてなかった私も
急病のお父様と、故郷の大分に旅をすることが叶わなかったnoboさんも
楽しく生きることがいちばんの親孝行と信じて
親の分も、いっぱい旅をして、きれいなものをたくさん見て、おいしいものを食べましょうね!

原田マハさん、noboさんならきっと、好きになってくださる作家さんだと思います。
この本は、100ページくらいならまだ平気よね♪
なんて思いながら読んでると、私みたいに
宅急便こないでー!と焦ることになるので、くれぐれも油断せず
時間を見計らって読んでくださいね(*'-')フフ♪

andesapresriam12さんのコメント
2013/07/01

まろんさんへ

いつも花丸ありがとうございます!

本も良かったですが、まろんさんのレビューも感動しました!

最近ますます映画ばかりになっている私の本棚ですが、原田マハさんの本は私の琴線に触れる本ばかりではまっています。

まろんさんの読書量は凄いですね!

来月ぐらいから忙しくなって暫く時間がなくなりそうなのですが、なかなか借りれなくて後回しになっている図書館戦争の別冊は何とか読もうと思っています。

まろんさんのコメント
2013/07/05

andesapresriamさん☆

こちらこそ、いつもたくさんの花丸をありがとうございます!
おかえりほどではありませんが、なぜかこの2ヶ月ほど
冠婚葬祭ラッシュで北海道から九州まで飛び回っていて
お返事が遅くなってしまってごめんなさい(>_<)

普段、ピアノのレッスンも自宅だし、暇さえあれば家で本を読む生活なので
旅先での慣れない「長男の嫁」モードに気力を使い果たして帰ってきたのですが
andesapresriumさんの温かいコメントに「おかえり!」と迎えてもらったようで
とてもしあわせな気持ちです。
ありがとうございます!

来月からは、こんどはandesapresriumさんが忙しい時期に突入されるんですね。
別冊図書館戦争で、思う存分エネルギーを充填してくださいね(*'-')フフ♪

HNGSKさんのコメント
2013/07/06

まろんさん、私に「おかえり」をお願いします。
私、ぼちぼち海外に、しかも日本と国交のない国に旅行しますので、帰って来たあかつきには、「おかえり!!」をお願いします!!

andesapresriam12さんのコメント
2013/07/08

まろんさんへ

お返しのコメントありがとうございます!

北海道、九州、岐阜とお疲れ様でした。

岐阜は私もこの春に結婚式のために行って下呂温泉にも行ったのですがお湯がとても良かったです。

原田さんが執筆中の「貴婦人と一角獣」を題材にした小説は最も謎に包まれている6番目の「我が唯一の望み」がどのように扱われているのか楽しみです!

まろんさんのコメント
2013/07/10

あやこさん☆

おお、あやこさん、海外にご旅行ですか!
それも日本と国交のない国とは、いったいどんなドキドキワクワクが待ち構えているのでしょう。
新しい体験をいっぱいして、そしていつも以上に溌剌としたあやこさんとなって
無事に帰ってきてくださいね。
心からの「おかえり!」を用意してお待ちしています(*'-')フフ♪

まろんさんのコメント
2013/07/10

andesapresriamさん☆

なんと、andesapresriamさんもひと足違い(?)で岐阜に行かれてたなんて!
私は岐阜は初めてだったので、名古屋で新幹線を降りてお土産やさんをのぞいたら
ほとんどが「手羽先味」か「小倉トースト味」であることにカルチャーショックを受けました。

「貴婦人と一角獣」、想像力をかきたてられる連作ですよね。
貴婦人の「我が唯一の望み」は何と捉えるのか、原田マハさんの解釈が楽しみでたまりません。
(特に、あの、小箱の中のネックレスとか♪)
他の5枚もそうですが、細部を見れば見るほどに空想がひろがっていく作品なので
もう今から期待がむくむくと膨らんでいます!

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