英雄の書(上) (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (2012年6月27日発売)
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本棚登録 : 4655
感想 : 305
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図書館の本達がザワつき、古書が様々な知識や呪文を語る。
“図書館の魔女” よりサラッと読める児童ファンタジー文学とも近い文体、でも図書館の魔女を読んだ時以来の、物語や過去の伝承口承までもが束になって連なり頭の中に広がる”咎の大輪”の情景に、こころを掴まれる。
そして、後半、現実世界にユーリとして戻った後、兄の殺傷事件を追って知ることになる優等生で人気者の兄にふりかかった悪意。

私は物語との出会いにおいて、現実となにかしらリンクしたり、とてつもなく沁みる言葉があると、今出会ったことが縁だったと思える。
優等生の兄、誰にでも起こりうる事故で顔に傷を負い家族までもそれが原因で離散しいじめを受けた同級生。いじめを問い正し、担任に非をなすりつける別の教員にまで疑問を呈したことで、翌年兄にふりかかる悪意。それは、子ども達がいじめを受けませんように、担任に恵まれますように、周りの人たちに恵まれますように、と日々願う親にとって、ドキリと胸を打つシーン。
これはファンタジーであり、ここからまさか出来の良い息子が殺傷を、という背景に書物の魔法のようなものがからんでくるのだけど。
現実の子どもたちをめぐる環境が、あたたかいものでありますように。子どもの変化に気づき、必要な時に力を尽くせますように。などと思いながら、次の巻で広がる世界が楽しみでたまらない。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2021年6月22日
読了日 : 2021年6月22日
本棚登録日 : 2021年6月5日

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