箱入り息子の恋 DVDファーストラブ・エディション

監督 : 市井昌秀 
出演 : 星野源  夏帆  平泉成  森山良子  大杉漣  黒木瞳  穂のか  柳俊太郎 
  • ポニーキャニオン
3.54
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本棚登録 : 834
感想 : 194
5

星野源主演の映画ということで気になっていたところ、たまたまamazonプライムで視聴することができた。下手な純愛映画よりもよっぽど世のあぶれ者には刺さる作品だった。

諸事情により当日活動しすぎたため思わぬ睡眠に陥り、0時時半過ぎのことである。実家の空気は非常に冷たい。要するに寒い。暖房を切ってしまっている就寝時間にはまじでどこからともなく冷気がやってくる。だがしっかり午後6時から6時間も睡眠をとってしまったために眠ることができない。仕方なしにこういう時のために環境を整えておいた私の想定を褒めてやりたいものである(そもそもこんな時間に眠れなくなるほうが想定外なのはさておき)
興奮しすぎず、かといって静けさを追求してホラーを見てしまうと怖くなってしまうので、のんびり鑑賞できるものとしてチョイス。

あらすじとしてはこうだ。主人公は天雫健太郎、35歳、市役所の公務員、友人なし、交際経験なし、童貞、昼食はスーツのまま自宅へ戻り、趣味は格闘ゲーム、ペットはアマガエル。そんな偏屈の塊のような息子を見兼ねて両親は親同士の見合いに向かっていた。息子は雨の日にたまたま傘を貸した女性がその相手として現れる。しかし彼女、今井直子は目が見えない障害を抱えており、直子の父はそれを極度に心配し健太郎の経歴にも納得していないようで…箱入り息子の恋の行方は。

何より主演の星野源の現代によく居るコンプレックスの塊のような人間を演じることに関しては天下一品としかいいようがない。不安定な目の動きや、だるそうな足運びといったら、いるいるとか、わかる、とか思わず共感してしまう。
健太郎は不器用で野心なく度胸もないが、生真面目で繊細で心優しい心の持ち主だ。だからこそ、ずぶ濡れで雨宿りをしていた直子に傘を貸してあげるという、とても小さな親切をすることができた。
侮辱する直子の父親に啖呵を切るのは気持ちが良い。それに相手の直子役の女優さんも美しく純粋で儚げだ。
それに影ながら応援してくれる同僚の女の子も存在感があり、苦しみを抱えながら頼りになるところも見所だ。

場面は転回するが、直子を守ろうと不慮の事故で大怪我を追ってしまった健太郎に、見舞いに来た健太郎の母親の言葉が直子でもないのに悲しさに迫るものがある。「ごめんなさい」と訴える彼女に、母親は「触らないで。お引き取りください。聞こえなかったの。貴方は目だけじゃなくて耳も悪いの」
平時でこんなことを言ったら差別でしがないが、健太郎の大怪我は直子が原因といって差し支えない状況に他ならなかった。その後のカットにある、唇を震わせる彼女が、まさか言葉まで失ってしまったのではないかとぎょっとする。

事故に合ってから疎遠になってしまっていたが、ふとした時に健太郎は、吉野家に入っていく直子を見るける。吉野家に入ったことがない直子と初めて食事をした場所だった。そっと後をつく健太郎は不審者に他ならないが、泣きながら牛丼を口に入れる直子に健太郎も涙を流した。思わずお前もかよとツッコミを入れてしまったが、健太郎の愛らしさがよく表現されている場面だ。かっこいい人がかっこよいのではなく、どんなに無様な姿でも思いに向けて真摯に突き進める人がかっこよいのだと気付いた。

結末については詳しくは述べないものの、これは単純な純愛な物語に見えるが、そうと安易に結論づけて良いものかと思わず首を傾げたくなる。いくら負傷しても直子を求め続ける健太郎、もちろん直子も合意の上で幸せそうではあるが、何度となく立ちはだかる障害に、たとえ頭から血を流そうと脚がおかしな方にねじ曲がろうと、立ち向かい続ける健太郎には執着や執念のようなものを感じてゾクリとした。人と関わらず、内に篭り続けていたときよりは表情も柔らかくなり朗らかになっていた健太郎だが、最後は病床で無表情に直子宛の手紙を点字で綴る。やっとお互いが全力で愛せる人を見つけられたと考えれば純愛に他ならないが、恋情や愛情の狂気じみた激しさも垣間見た気がした。願わくば、健太郎が名の通り健やかなままで、仲が深まっていったときのように、年老いても手を繋いで歩いていてほしいと祈らずにはいられない。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 映画
感想投稿日 : 2017年12月17日
読了日 : 2017年12月17日
本棚登録日 : 2017年12月17日

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