卵の緒 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (2007年6月28日発売)
4.01
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本棚登録 : 12711
感想 : 1333
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2023.12.13 ☆8.6/10.0



瀬尾まいこさんのデビュー作、そして彼女の作品の7作目です


僕は捨て子だ。その証拠に母さんは僕にへその緒を見せてくれない。代わりに卵の殻を見せて、僕を卵で産んだなんて言う。それでも、母さんは誰よりも僕を愛してくれる。「親子」の強く確かな絆を描く表題作(卵の緒)。
家庭の事情から、二人きりで暮らすことになった異母姉弟。初めて会う二人はぎくしゃくしていたが、やがて心を触れ合わせていく(「7's blood」)。


作品紹介の文章をお借りすると本書はそんな二作で構成されています。


表題作『卵の緒』は、捨て子疑惑を抱く小学生の男の子・育生とその母親・君子の絆を描いた心温まる物語です。
血のつながらない親子…という深刻な話ではなく、母親は実にオープンであっけらかんとしていて、心から息子を愛し、ストレートな言葉で愛情を表現します。


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「母さんは、誰よりも育生が好き。それはそれはすごい勢いで、あなたを愛しているの。今までもこれからもずっと変わらずによ。ねえ。他に何がいる?それで十分でしょ?」

「想像して。たった十八の女の子が一目見た他人の子供が欲しくて大学を辞めて、死ぬのをわかっている男の人と結婚するのよ。そういう無謀なことができるのは尋常じゃなく愛しているからよ。あなたをね。これからもこの気持ちは変わらないわ」


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息子の育生も素直で優しい子です。「親子の証」って何? の答えを軽やかに示してくれています。どこか、『そして、バトンは渡された』に通じるものがあるなと思いました。

本書にせよ過去読んだ作品にせよ、改めて瀬尾さんは、ちょっと複雑な家族関係を、重くならずに優しく、だけどちょっぴり切なく描くのが元々上手だったんだなぁ、と実感しました。


「家族」という言葉ひとつとっても、さまざまな形があります。家族というのは、人と人との結びつきの形、その呼称にすぎません。だとしたら、いろんな家族が、いろんな結びつき方が、あってもいいはずです。



この本を読んでいると、描かれている家族の日常の風景が静かに心に沁みてきて、こわばっていた心をほぐしてくれる。肩の力を抜く手助けをしてくれる。世界を見つめる視野を広くしてくれる。



さらに、瀬尾さんのあとがきの一文がとても印象的です。



”そこら中にいろんな関係が転がっていて、誰かと繋がる機会が度々ある。それは幸せなことだ。”



この考え方が瀬尾さんの作品の原点にあるんだなぁと、妙に納得してしまいました。


瀬尾まいこさん特有の優しさや温かさ、人との関わりを大切にしたくなる物語は、今後も読み手である私たちの心を、明るく照らし導いてくれる気がします。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ハートフル
感想投稿日 : 2023年12月13日
読了日 : 2023年12月13日
本棚登録日 : 2023年12月13日

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コメント 1件

ちゃたさんのコメント
2023/12/15

こんばんは。ちゃたと申します。この作品名作だと思います。卵の尾ではけらけらと笑い飛ばすカラリとした君子が魅力的です。7s bloodはラストの圧倒的な解放感がよかったです。(ドラマ化されているのでいつか見たいです。)私も心がこわばった時に瀬尾さんの本はオススメだと思います。またのレビューを楽しみにしています(^o^)

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