赤目四十八瀧心中未遂

著者 :
  • 文藝春秋 (2001年2月9日発売)
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感想 : 183
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 凄まじい物語である。
 この話はすでに10年以上前に書き上げられている。その年の直木賞を獲っている。
 その後しばらくして、もう私小説は書かないと著者は宣言した。命を削るような話は最早書けないとも言った。当然だろう。

 『漂流物』が、本命視されていたにもかかわらず芥川賞を逸したとき、この話は原稿用紙にして300枚ほどすでに出来上がっていたという。著者の奥さんは、コノ物語が完成した直後、夫はコノ作品で次の直木賞を獲る。と断言し吹聴して回ったという。身内の欲目、では断じてないと思う。彼女とて一級の詩人であるからではない、ある程度の読書人であれば、一読すればその「確信」が解る。
 白洲正子が「十何年もまえに見っけたのは私なんだからねっ」と豪語したのは直木賞受賞の直後だから既に10年前だ。稀代の目利きが見出してから世間が認めるまで十数年を要したことになる。私のような凡人がその存在を発見したのが四半世紀後であっても恥ずかしいことではなかろう(でも、もっと早くに知っていたならもっとよかっただろうが)。

 書くことに命を賭し、あるいは書くことで命を苛み、生きて狂ったか、あるいは狂って死した累々たる文豪たちの人生と作品との比較において、凄みの点で一歩も引けをとらず、むしろ凌駕するほどのものである。尚且つ今生き、書き続けている作家である。
 そしてまた、世に出た後も、なぜか埋もれている存在でありつづけて見えるのは、この作家に一層凄みを加えている。

 万人にお薦めできるものではない。それどころか万人に戸惑いと一種の嫌悪を抱かさずにはいられないこの作家と作品は、それ故にこそ紛うことなき逸品に違いない。稀代の目利きが見出し、第一級の文学賞を獲った作品だから、ではない。読むものがそれぞれ読んで感得するしかない凄みがある。

 最後の文豪である。少なくとも私ひとりはそう確信する。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2011年2月27日
読了日 : 2008年2月8日
本棚登録日 : 2011年2月27日

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