やし酒飲み (岩波文庫)

  • 岩波書店 (2012年10月17日発売)
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10歳の頃からやし酒を飲むしか能がない男には、父が雇った専属のやし酒作り職人がいたのだが、ある日やしの木から落っこちて死んでしまう。途方に暮れた男は「死んだ人はすぐには天国へ行かず、この世のどこかに住んでいる」という古老の言葉を思い出し、死んだやし酒作りを探す旅へと出発する。


1ページ目から文体の酩酊感がすごい。「神である彼の家に、人間が、わたしのように気軽に入ってはならないのだが、わたし自身も神でありジュジュマンだったので、この点は問題なかった」とかいう一文が、主人公が神である説明一切なく急に出てくるので困惑するが、読むほうもアルコールを入れるとだんだんチューニングが合ってくる(笑)。
飲んだくれの語り手はどこも勇敢なところがないけれど、予言能力を持つ娘を娶ることになったり、訪れた村の人びとが全滅するなか自分たちだけ生き残り、あるいは生き返るような、古来の英雄譚を思わせる道程を辿る。魔物に追いかけられ、それを魔法で退治しながら新しい村に入り、その村のしきたりによる洗礼を受ける、というパターンの繰り返しはRPGゲーム的でもある。
ディネセンの『アフリカの日々』と続けて読んだら、池澤夏樹個人編集の河出世界文学全集と同じ組み合わせだった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2020年6月7日
読了日 : 2020年5月21日
本棚登録日 : 2020年6月7日

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