ち-ちゃんはちょっと足りない (少年チャンピオン・コミックスエクストラもっと!)

著者 :
  • 秋田書店 (2014年5月8日発売)
3.97
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本棚登録 : 1388
感想 : 140
4

作者による「私」(ナツ・読者)への断罪(もちろんお金を盗んだことへ、ではなくその「足りない」と思い込み世界に要求し続ける罪悪への断罪)。ものすごい強さ
で糾弾するためにかかれた漫画。

軽い気持ちで読みはじめて、知恵遅れの「足りない」ちーちゃんが笑えないし微妙だな……、と思って読み進めていたら、(お金を渡されたシーン・ナツの部屋が映し出されたシーンで)突然、ナツちゃん(つまり ちーちゃんを傍観していた「私」)に視点が切り替わって急にステージの上に引き摺りあげられたことに耐えられなくて本を閉じた。
それから再開して、ちーちゃんが「とった」と言った瞬間にもう一度本を閉じた。小学生とか中学生とかのときに悪事がばれたときと同じ感覚だった。
読み進めて、ちーちゃんが許されたこととちーちゃんが「ナツにあげた」と言わなかったことにひどく安堵した。
ここまできて、完全にナツ視点で「読まされる」ための日常パートだったことをここで理解した。作者はたいへん上手な漫画家だと思う。(それは仮の主人公であるちーちゃんは「足りない」子なので、感情移入を誘わない・未知の生命体として描かれている)(旭ちゃんはお金持ち頭がよい正義感が強いと意地悪だけれどたいへんポジティブに描かれている・ナツが彼氏のことについて「旭ちゃんに取り残された」と考えているシーンがあるところでナツ視点で物語が展開しはじめる)

私はナツちゃん側で、毎日の生活をナツみたいな心を(多かれ少なかれ気分の浮き沈みはあれど)抱いて生きている。
もしも私がナツちゃんならそれからちーちゃんが許されたという事実に更なる(自分はつらい思いをしているのにちーちゃんは周りに愛されて甘やかされて厳しくされてつまり愛されていることに対する)「足りなさ」を感じるんだろうな、と思ったら断罪される気分になって、ナツちゃんが黒くなったり歪んだり世界がぐにゃんとしたりするものに同調してしまった。

私がこれを読んだとき物足りないと思った点として、「ちーちゃんがあっさり許され過ぎている」というところと「ナツが誰にも責められない」ところをあげておく。前者はその前に書いた通り「足りない(と思い込んでいる)ことへの要求」なので断罪対象。後者はあまりにナツ=自分が気持ち悪かったので、作中で断罪されたかった(つまり本という媒体で完結させたかった・現実に拡張したくなかった)のだろう。しかし作者はこうすることであえて物語を現実に拡張させ、作外で作者が断罪を行ったんだろうと思われる。

更に特筆すべきところは、だれも悪くない、いいところと悪いところをそれぞれが持っているということを書いているという点だ。
それはナツも例外ではなくちーちゃんの面倒を見続け(「足りない」子の面倒を押し付けられているという描写が前半はほぼなくも後半も少なかった)ているよいこな面を持っている。それに中学二年生が1000円をもらってしまう、なんてものもいわゆる「よくある悪事」程度の他愛もないものだろう。
しかし、ナツの最悪なところはお金を盗んだことへの悪びれが1ミリたりとも存在しておらず、それどころか自分を「与えられていないかわいそうな人」だと思い込んでいる。
さらにいけないのは、そのすべてが無意識的であるので、そこに対して改善の見込みが見受けられないところだろう。欲しかったものを手に入れても周りに迷惑をかけて要求しても、ナツちゃんは飽くことなく世界に「足りない」(と思い込んでる)ものを要求し続ける。これが私(あるいはわたしたち)の嫌悪感を掻き立てる。なぜならそれが私の姿のままであるからだ。

ナツちゃんの部屋に沢山の浪費の影が散乱しているところがまた上手い。(5000円のリボンを捨てるシーンもその増幅だろう)「足りない」と思い込んで(与えられているものには少したりとも目を向けないで)貪欲に世界に「足りない」片鱗を要求する自分を鏡で見せつけられたきがして、思わず食欲・物欲・金欲のすべてを失った。ダイエットにはいいかもね。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2014年12月20日
読了日 : 2014年12月13日
本棚登録日 : 2014年12月13日

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