夜の三部作 (P+D BOOKS)

著者 :
  • 小学館 (2016年8月8日発売)
3.86
  • (3)
  • (0)
  • (4)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 49
感想 : 4
5

「冥府」「深淵」「夜の時間」の三作収録。解説(息子の池澤夏樹)によると、作者自身がこれらを「夜の三部作」と呼んでいたらしい。夜=死の印象の強い3作でしたが、どれもテイストが違って良かった。

「冥府」は一種の死後の世界の話。失った生前の記憶を少しずつ取り戻しながら、「新生」=生まれ変わるための裁判を待つ人々が暮らす不思議な町。死者同志が7人集まると裁判が始まる不思議なシステム。悪夢の中のような浮遊感のある短編。

「深淵」はうってかわって現実的なドロドロ感がある。結核療養所で15年暮らし聖女と呼ばれた30代半ばの女性が、どうしようもない「飢え」を抱え放火や殺人を繰り返して生きてきた50代の男と運命的に惹かれあう。解説で「舞姫タイス」を引き合いに出されていたけれど、なるほど、男女は逆ながら近いものが。男女どちらの心理も救いがなく、読後感は重い。

「夜の時間」は三作の中でいちばん長編で、そして個人的には一番好きだった。若き医者・不破と、彼の婚約者で結核患者の冴子、そして冴子の友人で不破の元恋人の文枝。かつて不破の親友・奥村次郎の自殺をきっかけに破局した二人が再会したことから物語が動き出す。一見三角関係の恋愛メロドラマのようでありながら、実は文学における普遍的なテーマともいえる「人はなぜ生きるか」を真正面に据えており、意外にも3人ともが前向きになるラストが感動的。恥ずかしながらちょっと泣いた。

「神になるため」に自殺した奥村次郎というキャラクターの印象も鮮烈。奥村の自殺の理由を理解できず、残された二人が戸惑い苦しむ様子に、なぜか萩尾望都の「トーマの心臓」が重なった。奥村はさしずめ、一人でサイフリートとトーマの役柄を担っている。文枝がユリスモールで、不破がオスカー、冴子はエーリクかな、などとつい置き換えながら読んだ。まあそれは別としても傑作。もっと読まれるべき作品だと思う。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ:  >は行
感想投稿日 : 2016年8月29日
読了日 : 2016年8月28日
本棚登録日 : 2016年8月19日

みんなの感想をみる

コメント 2件

淳水堂さんのコメント
2021/10/03

yamaitsuさんたびたびこんにちは。
ちょうどこちらの本登録したらyamaitsuさんがいたーー(^o^)/

「夜の時間」良かったですよね。
なるほど「トーマの心臓」でもありますね。

福永武彦はもっと読まれるべき。本当に。
私にとって日本文学最高傑作は福永武彦「忘却の河」です。

yamaitsuさんのコメント
2021/10/04

淳水堂さんさん、こんにちは(^^)/

淳水堂さんの感想拝見しました~!やっぱいいですよね、福永武彦!この『夜の三部作』はとくに大好きです。もちろん「忘却の河」も!!

同時代の作家に比べてイマイチ地味というか評価されていない気がするんですけど、なぜなんでしょうね。この10年くらいで、息子の池澤夏樹の尽力もあるのか、結構復刻したとは思いますが…。

みんなもっと福永武彦読もうよ!と声を大にして言いたいです!

ツイートする