春琴抄 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (1951年2月2日発売)
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感想 : 904
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久々の再読。あらすじは勿論覚えていたが、語り手の「私」が「鵙屋春琴伝」という本を手に入れてその内容を実在の人物風に語る体裁だったことは、すっかり忘れていたので、え、こんな感じだっけ、と驚いた。谷崎は、時期によって文体が全然違う。春琴抄は短い評伝といった感じで、なぜか本来あるべき読点がなかったりして(でも不思議と自然に読める)実は実験的な文体だったのかも。

すじがきはおなじみ、少女の頃に病で盲目になってしまった裕福な薬種問屋のお嬢様・春琴が、長じて三味線の師匠となるも、美人ゆえ高慢で性格に険があるためあちこちで恨みを買い、顔に大やけどを負わされてしまう。幼い頃から彼女に仕えていた佐助は、ずっとかいがいしく春琴の世話を焼き続けていたが、体の関係を持ちながらも春琴は身分の差のある佐助を対等な伴侶とは認めない。しかし春琴が火傷を負ったあと、佐助は自らも盲目となりようやく二人は精神的にも強く結びつく。

なんとなく記憶の中で、佐助の献身がとてもプラトニックなイメージだったのだけど、ちゃっかり子供も作っていて今更驚いた。というか春琴嬢のこじらせぶりが凄い。谷崎の恋愛小説(?)を読んでてよく思うのは、ドSだろうがドMだろうが結局は需要と供給の一致が大切で、どんな特殊な性癖だろうが、お互いの趣味が一致してれば幸せなんだろうなというところ。

そして「幇間」なんかもそうですが、結局ドMのほうが一方的に献身して辛い目にあってるように一見みえても、実は自分の幸福のために相手をとことん利用しているという点では、佐助のほうが春琴よりしたたかなのかも、と思ったりもしました。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ:  >た行
感想投稿日 : 2021年5月27日
読了日 : -
本棚登録日 : 2012年10月1日

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