豊饒の海 第一巻 春の雪 (新潮文庫)

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感想 : 655
4

久しぶりに再読中。最初に読んだときは主人公たちに近い年齢だったから、もっと共感しながら読んだ気がするのだけど、すっかり年を取った今となっては、彼らの若さゆえの愚かさを「あーあ、バカだなあ」という上から目線でしか見れなくなってしまった(苦笑)

清顕も聡子も、まあ今でいう一種のツンデレで、ツンとデレのタイミングが噛み合わなかったばっかりに、とんでもないことになってしまう。彼らの恋は悲恋だけれど、それを悲恋にしてしまったのは実は自業自得で、ロミオとジュリエットのように親同士が仇なわけでもなく、身分違いというでもなく、双方「両想いです!」と宣言すれば、どちらの両親も祝福してくれて何の問題もなかったはずなのに。手に入らない他人のものになると思った途端、惜しくなる清顕の心理やくだらないプライドに同情の余地はない。聡子はさすがに可哀想だったけど。

とはいえ、この四部作の主題はそこではないので、彼らの悲恋の成り行きは別として、三島の文章は非常に硬質で美しく鬼気迫るものがあってしんみりする。留学生のシャムの王子など、これ1作で読むとやや唐突な登場人物も、いずれ伏線になるので構成も綿密。

清顕が最期に本多に告げる「今、夢を見ていた。又、会うぜ。きっと会う。滝の下で」という言葉には、いつも少し涙ぐむ。転生を信じていた三島は、自殺の日程を自分の誕生日の四十九日前にした(つまり誕生日に生まれ変わるつもりでいた)というのを何かで読んだけれど、彼の魂は今どこでどうしているだろう。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ:  ○三島由紀夫
感想投稿日 : 2016年6月27日
読了日 : -
本棚登録日 : 2012年8月8日

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