この作者では珍しく、女性ではなく男性の一代記。
一代記ではあるのだけれど、結構サクサクっと読み終えてしまいました。
主人公吉蔵は、織物界に旋風を巻き起こし、橋田家、細川家の古物の錦の復元から始まり、のちには正倉院の錦を復元するという偉業を成し、上総の宮ご成婚の折には陛下から祝いにタピストリー制作を依頼される……という、なんかざっと書きだすと順風満帆なサクセスストーリーに思えますが…。
あまりにも織物、錦に魂を傾けすぎてしまうので、一つ一つの偉業を成すためにその都度七転八倒の苦しみや葛藤と闘わねばならない、その苦しみ様は凄まじいものでもありました。
そんな彼を支えるのは、妻のむら、妾のふく、そして十代の頃から公私ともに使えた使用人の仙。
女性として愛されることがなくてもそれでも一生献身的に支え続けることができるのは、すごいことだと思ってしまいました。
吉蔵が亡くなったあと、妻のむらは
「あんた旦さんとしっかり名残を惜しみやす。わてが許しますさかい、遠慮はいらん。」
と仙を吉蔵の亡骸のそばに置いて二人きりにさせてくれるのですが、そのあたりの描写が、妻としての立場、仙への感謝の念などがうまく絡まり合ってよいシーンだと思いました。
でもなんやかんやあっても、業を成し、女性に愛された吉蔵は幸せな人生だったのではないかな、と思います。
モデルとされた瀧村平蔵や、正倉院の琵琶袋の復元など、少し興味があるので、少しまた文献を集めて読めたらなぁと思いました。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
小説
- 感想投稿日 : 2011年11月25日
- 読了日 : 2011年11月25日
- 本棚登録日 : 2011年11月3日
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