羊と鋼の森

著者 :
  • 文藝春秋 (2015年9月11日発売)
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外村君という山奥で自然と共に暮らす高校生が、先生に頼まれて案内した板鳥さんが体育館でつくり響かせた森にいるような音に魅せられて、おなじ道を選び、ピアノの調律師になって江島楽器の後輩として成長してゆく物語。

「また、桜の国で」もネタバレしています。↓

この本の前に読んでいた「また、桜の国で 」では、森は悲しみの象徴でした。
カディンの森でポーランド将校達22000人を1940年にソ連兵が殺害した事件や、パルミーリの森で聖職者や教育者、影響のある人物をナチスがひそかに繰り返し殺害していた事件、ナチスが待ち伏せしていて慎を死に追いやったのもワルシャワ郊外の森。森って聞くと苦しかった。
流れてくるのはショパンのエチュードでリンクしているのですが、森は、この作品では輝きが集う場所です。
森は世界であり許しと調和の象徴であり、重なりあう響きがひとつに帰る場所。モーツァルトの時代なら422hz、今は440に整えられた美しい個が響きあう場所。その優しく美しい森に響く音を紡ぎたいなぁ。羊と鋼の森のこの森に、私もそっと小さく座っていられたらどんなにかステキだなぁって思いました。

傷んだ気持ちが、ところどころにちょこんと咲く優しい言葉の森にも慰められました。

そのなかで、調律に正解はない、正しいという言葉に気をつけなさい、とイタドリさんに諭された主人公が、ありふれた、でもそこにあったものに「美しい」をみつけた、気づいたところで、ユンディ・リーのピアノやパールマンのバイオリンに出会った時のことを思い出しました。その曲が聞きたい、じゃなくて、この音が聞きたいという気持ち。好きのこだわりという我はそのまま個性なのだから大切に磨くべきものです。そのために彼が伸ばし広げた枝や葉、磨く努力は、いつか森の輝きの一部になってゆくのかなぁって思います。

ギリシャ時代は、天文学と音楽が文学だった。そして、星座と鍵盤の数は、おんなじ88っていうところは、
空と大地が溶けあうようなドキドキを想いました。

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感想投稿日 : 2018年5月12日
本棚登録日 : 2018年5月12日

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