秀逸で分かりやすく面白い。
物語としても素晴らしく、翻訳も本当に素晴らしい。
ただ語学的にただしく訳しただけでは作品にならない。音符通りに正確に弾いただけでは音楽にならないのと同様に、という言葉に痺れた。
そこに、翻訳の「美学」を感じる。
物語に登場する博士に対して、不安や恐怖からそんなことはあり得ないと批判を繰り返していた博士の甥が、そんなあり得ないことが現に自分の目の前に起こってしまった時の頭の中の感情と思考のメーターの振り切れようが半端ではない。
否定していた人間が今度は打って変わって、先陣をとって博士をも置き去りにする勢いで突き進む人間になってしまった。
反動で余計に勢いがつく。
その変わりようと言えば滑稽で仕方がない。
それまでひたすらビビりまくっていたその甥が言う。
「叔父にしては生ぬるい」と。
人間というのは、
頭の中の思い込みである常識を断固として譲らないが、目の前にそれに反する事実が露わになった瞬間に、こうも態度がガラリと180度変わるのかというのを作者のヴェルヌは面白く描き出してくれている。
科学というのは、コロコロと更新されて変わる。
ニュートンは地球の年齢を5万年と見積もっていたが、現在では45.5億年とされている。
空想科学小説であり、その科学の論理の元に書かれた小説の中で、科学などの合理主義を本質的には否定しているという、ただの文学でもなく、ただのSF小説でもない、何層にも深みが感じられる秀逸な物語。
読書状況:読み終わった
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- 感想投稿日 : 2018年11月23日
- 読了日 : 2018年11月23日
- 本棚登録日 : 2018年11月23日
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